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霧尾からの最後の手紙
先日はお見舞いをどうもありがとう。
天井を見つめる毎日だったのでとても嬉しかったよ。
君が帰ってからというもの、あの日以来どうにも昔のことばかり思い出している。
ねえ、君。覚えているかい、ニャースが猫なのかどうか議論したことを。
その後に犬山犬子について朝まで語り明かしたことを。
あの時はほんとうに楽しかった。
結局、ニャースは肉球がないから猫じゃないだろう、肉球がないのはウサギだろう、ニャースはバカだから自分がウサギなのを忘れてるんだろう、そう結論したっけ。
ねえ、君。僕は今よくわかるのだけど、自分は真剣にニャースになりたかったんだと思うよ。
より正確には、ニャースのような勢いのあるバカってことだけど。
君は始めて見舞いに来てくれたときに言ったっけ。
最近姿を見ないと思ったら車に轢かれてた、なんてまるで猫みたいだな。って。
ああ、その言葉に僕はずいぶん救われた気がする。
何を言ってるか解らないって?
まあ頭をかなり強く打ったからね。
ねえ、君。でも僕はやんぬるかな勢いのないただのバカでしかなかったようだ。
スマン、今のは「やんぬるかな」使いたかっただけだ。
ねえ、君。僕にはもう残された時間はほとんどない。
人の皮をかぶった猫が見る夢は、どうやらこの社会には不必要だったらしい。
ねえ、君。だから僕は君や友人達の記憶の中だけに消え行くことにするよ。
だから、ねえ、君。これは事故や偶然じゃあないんだ。僕と僕を取り囲む世界の必然なんだ。
ねえ、君。つまり悲しんではいけないってことさ。
解るだろう?
ねえ、君。僕の友よ、さようなら。
ほんとうにさようなら。

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