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小妖精の唄

◆木霊の日記帳 記録されない中表紙
見慣れた場所。懐かしい場所。忘れられない思い出。
期待と不安とでぐるぐるおたおたしている人間が一人、この島に降り立とうとしていた。
その島の名はピクシーパラダイス。
故あって一時閉鎖されていたこの島が再び開放されたと風のウワサで聞き及び、居ても立っても居られなくなってやってきたのだが・・・。
連絡船から桟橋へと踏み出す、その一歩が踏めずに小一時間。ずっと甲板に立ち尽くしているのである。
また、仲間に会えるのだろうか。会えたとしてどうするのか。それを仲間は望んでいるのだろうか。 こんな感じで甲板のあっちへ行ったりこっちへ来たり、船室に忘れ物はないか確認したり緊張のあまりトイレにこもってみたり。
しかし船が出発する時刻になるとさすがに決めなくてはいけない。ここで旅をするのか、このまま船で帰るのか。

「ねーちゃん、どうすンの? そろそろ出発だよ」

ヒマになったのか一人の船員が声をかけてくる。決断の時は近い、そのことにまた慌ててそこら辺りをぐるぐると歩き回る。

「わ、私は・・・」

なんとか震える声を絞り出す。どうするかは決まっていない。どうすればいいのだろう?
どう答えればいい? このまま帰る? ここに残る? たった一人で?

「私は・・・」

言葉に詰まる。心は決まっているはずなのに、どうしても踏み出せない、足が重い。
新しいことを始めるのが怖い。 ここまで来て? 今更・・・でも・・・

「行くンだろ? だったらコレ、忘れンなよ。落とすんじゃねぇぜ。」

一人の船員が手渡してくれた、小さな鈴が手のひらで小さな音を立てた。
その音にはっとなる。
何を迷っていたのだろう。その鈴を握りしめて笑う。
そうか、ただ背中を押して欲しかっただけなんだ。

「ありがとう、行って来るね。」

その言葉は自然にこぼれた。
ウソみたいに軽くなった足をふりあげ、思いっきり跳んだ。
桟橋から小さな港へ駆け出す。振り向いて大きく船に手を振った。
小さな段差につまづいて転ぶ。 もう怖くない、また走り出す。

どうするかなんて、後から考えればいい。 今、私は何をしたい?

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