「今からLCLを注入するわ。液体だけど安心して。肺がLCLで満たされれば直接酸素を取り入れてくれます。」

エントリープラグの中でリツコの説明を受けるシンジ。生返事を返しながら、彼は幾度も幾度も先程の決意を繰り返す。

(これに乗ってあの娘……綾波を守るんだ。絶対に、絶対に…っ)

「シンジ君、悪いけど操縦方法を説明している暇がないの。さっき読んでいた資料に書いてあった筈よ、あの通りにしてちょうだい。」

シンジはさっきまで読んでいた資料の内容を頭に思い浮かべた。

そしてそれは彼にもう一つ重要な事実を思い出させる。

即ちエヴァンゲリオンが使徒と呼ばれる生命体と戦うために造られたということ、その事実はやはり彼を恐怖させた。

(怖い…スゴク怖い……けど、逃げるわけにはいかない。誓ったんだ、綾波を守るって、綾波に……そして自分に。)

「…はい。」

そこまで考えると彼はこれまでの14年の人生の中で一番明確な、そして強固な意志を込めてそう答えた。

 

「本当にいいんですね?」

問うミサトにゲンドウが答える。

「…構わん。どのみち使徒を倒さなければ人類の未来は無い。」

(ユイ、シンジを守ってやってくれ。)

こちらのほうこそ彼の本音であっただろう。

 

 

「5番ゲート、射出。」

作戦部長であるミサトの声が発令所に響いた。

 

第弐話、第一次直上会戦

 

「………うっ……」

急激な加速に伴うGに耐えられず、小さく呻きを漏らすシンジ。発令所ではミサトがリツコに問いかけていた。

「シンジ君のシンクロ率は?」

「41.3%、凄いわ。彼。」

「……いけるわね……。いい?シンジ君。上に出たら取り敢えず歩く事だけ考えて。」

「判りました。」

モニター越しにシンジが答える。その数瞬後、彼は初号機と共に地上に射出されていた。

(歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く、歩く…………)

彼の考えに同調して初号機がその右足を一歩前に踏み出す。

『あ、歩いた……』

発令所にどよめきが走った。だがその直後、左足を踏み出そうとした初号機がバランスを崩して転倒する。

「!」

シンジは驚いた。顔に痛みを感じたのだ。

(な、なるほど。そういうこと……)

シンジの考えはそこで中断された。左腕に転んだ時とは比べものにならない痛みが走ったのだ。

見上げると目の前に使徒がいた。それは空いているほうの腕で初号機の顔を掴むとエヴァの腕を握る右腕に力を入れる。

  ゴキッ

「うわあああああああっっっっっっ!!!!」

「シンジ君落ちついてっ!あなたの腕じゃないのよ!!」

言いながらミサトは歯ぎしりする、明らかに自分達のミスだ。初号機が歩いたのに気を取られて使徒の接近に気が付かなかった。

モニターには初号機の頭を掴んで持ち上げている使徒が写されていた。

バシイイン!バシイイン!!バシイイン!!!

使徒の掌から伸びた光の槍が初号機の右目を貫くと、そのままエヴァの巨体を後方に突き飛ばす。

 ドガアアアアアン!!!

ビルに突っ込んでようやく止まった初号機、貫かれた頭部からはLCLが勢いよく噴出している。

「頭部損傷、機能停止!」

「パイロットの生死、確認出来ません!」

「シンジ君、大丈夫!? シンジ君!!」

シンジはエントリープラグの中で、右目をおさえてうずくまっていた。

「こんなコトで……こんな所で負けるわけにはいかない。僕は…僕は………

僕は綾波を守るんだあああああっっ!!!!

「!…エ、エヴァ再起動。そ、そんな……動けるはずありません!シンクロ率も上昇していきます。50…60……は、80%を突破しました!!」

「何ですって!?」

 

「やはりユイ君か……?」

「ああ…そのようだな。」

(それにしてもシンジの奴…レイのコトをそんなに気に入るとは……。やはり一人っ子は寂しいと思い、ユイの遺伝子から(他のもちょっぴり混ざってるけど)「妹」を造っておいた俺の判断は正しかったようだな……)

そう考え、「ネルフ名物、碇司令のニヤリ笑い」を炸裂させるゲンドウ。

そんな限りなく怪しい中年親父を横目に見ながら冬月は思った。

(どうでもいいがシンジ君はレイが「妹」だと知らないぞ?)

すでに彼にはゲンドウの心が読めるようである。

 

 

 

 ドガアッ!!

初号機は助走もなしに数百メートルも「跳躍」するとそのまま使徒に殴りかかった。既に左腕は復元している。

たまらずに初号機を振り落とす使徒。そのままATフィールドを展開する、八角形の赤い壁が現れ・・・そして消えた。

「目標、ATフィールドを展開。直後に消失……いえ、これは…中和したの? 初号機が?!」

「違うわ、浸食したのよ……一瞬でね。」

碇ゲンドウ、冬月コウゾウの両名を除いて最も早く平静に戻ったリツコがそう訂正する。

(彼…碇シンジ君……正に天才ね…)

 

「うおおおおおお!!!」

叫びながらシンジは初号機を操り、使徒に容赦ない打撃を加えていく。狙っているのは一カ所、使徒の体の中心にある赤い球体である。

本能に突き動かされるまま、それに攻撃を集中させる。そしてその勘は当たっているようだ、目に見えて使徒が衰弱してきているのがわかる。

さらに打撃を与えようと初号機が右腕を振り上げた瞬間、使徒の体がゴム状に変化し初号機にまとわりついた。

そのまま光を発し始める。

「まさか自爆する気!?」

ミサトが叫び終わるのを待たずにそれは爆発した。

 

 

 ドグオオオオオオオン!!!!!

 

 

 

 

使徒の最後の力を振り絞った爆発が終わった後、降り注ぐ砂塵に隠れて立ちつくす初号機の姿があった。 

 

 

 

 

 


2002.3/4 加筆修正(果たして修正になっているのかどうか……)

 

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