まもって守護月天 ハルカさんHPリンク記念編〜

いつでもそこに、青空が

 

 

 

 

 ――そういえば、アタシって恋なんてした事無かったな。

 

 

 

 

 ――ま、興味無いし、アタシは目の前のコイツが幸せになる方が嬉しいんだけど

ね――

 

 

 

 

「? 翔子さん?」

 目の前の彼女――守護月天 シャオリンがこちらをきょとんとした表情で見つめ

ている。

「ん…? 何でもないよ」

 

 そう言って、苦笑――

 

 

 彼女――山野辺 翔子は、シャオと共に七梨宅に向かっていた。

 シャオが商店街の福引で、『お好み焼き粉10kg(←2等)』が当たったらし

く、何だか知らないが『お好み焼きパーティ』を開くという話になり、翔子はそれ

に招待された――という訳だ。

 特に食べい訳では無いのだが――何か面白くなりそうだと思い、その招待を受け

た。…というより、シャオの招待を断る事は出来なかったからなんだけど。

 

 

 

 

 今年の夏は空梅雨の様で、少し蒸し暑いものの、積雲がポツポツ浮かんでいるだ

けで、夏らしい晴天だといえよう。

 そんな中、2人が七梨家に着くと――

 

 

 ――…案の定、

 

 

「よぅ紀柳」

 

「む…ああ、翔子殿…!」

 

 庭にいた大地の精霊――万難地天キリュウが、こちらの呼び掛けに振り返り、会

釈をする。やはり少し暑いらしい。短天扇で扇ぎ、涼んでいる。

「今日も試練か?」

「ああ――見るか?」

 そう言って庭の奥の方――こちらからは死角になっている所を指差す。

 

 

 ………。

 

「あ、山野辺――いらっしゃい」

「…七梨、お前何やってるんだ」

「キリュウの試練」

「見りゃ判る…――で? その妙なギプスは何なんだ?」

 七梨 太助の上半身には妙なバネの着いたギプスが装着されていた。Tシャツの

下に込んでいるのだが、半袖なので腕の部分だけ見えるし、それ以前にTシャツが

奇妙に盛り上がっている。そしてその右手には軟式野球のボールが握られていた。

「さぁ、俺も良く判らないんだ――これ着けて…――ほら、そこの壁」

 そう言ってぎこちない動作で壁の1部分を指差すと、そこには直径20cm程の

――丁度野球ボール1個分の穴が空いていた。

「何だこりゃ?」

「このギプス着けて、このボールを投げ入れる、ってのが、今回の試練なんだと」

巨人軍にでも入る気か?

 

 

 

 

 

「――にしても、面白そうだから来たのか」

 

 家に入り、リビングに座る太助に来た理由を話すと、太助は呆れた顔で

「…暇だな。山野辺」

「今のお前に言われちゃお終いだ」

 即座に反論――言われた太助も『実際その通りかも』と思ってたらしく、口篭も

り、翔子はしてやったり、と勝ち誇った笑みを浮かべた。

「…まったく――こんな事で言い負かされてたら、いつかシャオと結婚したら、尻

 に敷かれちまうぞ」

「………!」

 その一言に、太助の頬が微かに赤みを帯びる。

「…け…結婚なんて――ンな早い…!」

「そうか?――大学出て結婚したとしても、22歳で8年――学生結婚ってのもあ

 るから…あとたった4年後だぞ」

 

 

 

 

 ――4年…

 

 

 

 

(――4年経ったら、コイツ(←七梨)やシャオ…そしてアタシはどうなってるん

 だろう…)

 

 

 アタシは――多分、今と同じ様に、コイツらの世話を焼いてたりするんだろーか

なァ…

 

 太助は――コイツもきっと、普通に高校行って、今と同じく3精霊に振り回され

たりしてるんだろうな――…

 

 ――じゃぁ、シャオは…?

 

 

 

「…なぁ七梨、シャオは――シャオはどうするんだ?」

「あぁ?」

 理解出来ずに太助は聞き返す。

「だから…シャオは進学するのか?」

「する…んだと思う」

 曖昧な返事が、翔子の苛つきを昂ぶらせる。

「ハッキリ言え」

「…シャオの好きにさせるよ」

「………」

 シャオの好きに、だ?

 

 ふざけるな、だ。

 

 

「シャオを本当に好きなら、一緒に進学したいだとか結婚したいだとか言えよ!」

 

 

 

 

 

「――…!」

 

 

 ――はっ! しまった。思わず叫んでしまった――

 

 …しかも、あまりに声が大きかったのか――キッチンのシャオにも聞こえたらし

い。こちらをの方を覗き込んでいる。

 

「山野辺…」

 唖然とした顔で太助は思わず立ち上がっている翔子を見上げる――

 

「アタシ…ちょっと帰る…!!」

 

 

 

 

 

 そのまま挨拶もせず走り去っていった翔子――玄関を覗いてみたが、後姿は既に

無く、七梨家のリビングには気マズイ雰囲気だけが残った。

 

「結婚…祝言…こりゃめでたい(壊)」

「キリュウ、ちょっと黙れ」

 

 

 

 

 ちょっとグレている万難地天を余所に、シャオはお好み焼き粉のパテの入ったボ

ールを持ったまま、太助の方をチラと見、

「太助様…」

 ちょっと言い難そうだったが、彼女はそれを振り払うように、

「行って…あげて下さい――翔子さんの所に…。…よく判らないですけど、こうい

 うのって、私じゃダメな気がするんで…」

 

 

 

 

 

 

 

 ――シャオの言う通りだな…

 

 ――山野辺が何で怒ったのか判らないけど、ともかく俺の言葉がアイツを怒らせ

たって事は確かだ。

 

 それを確かめて――謝らなければ…――後悔するような気がする。

 

 

 

 その思いが、七梨 太助の足を動かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

(バカだな…アタシは。あんな下らない事で怒って…)

 

 ――こんな所で蹲って…

 

 

 

 全速力で自分の家に帰り、そして自室のベッドに駆け込んだ。

 

 

 

 …何であんな事で腹が立ったんだろう…

 …他人事なのに――

 …これは七梨とシャオの問題だ。いくら世話を焼いてるからだって、そこで怒る

のはあまりにもお節介過ぎる。

 

 

(…妬いてんのかな…)

 

 ――だからこそ、ハッキリしない優柔不断なアイツが憎らしい。

 

 そんな事で、シャオを人間に出来るのか?

 そんな事で、シャオを幸せに出来るのか?

 

 

 

“コン”

 

「…?」

 突然窓から妙な音。硬く小さい物が当たった様な…

「何だ…?」

 そう思い、窓の方へ向かい、そこから外を覗くと――

「七梨…!」

 

 そこには走ってきたらしい、息を切らしたらしい太助がこちらを見上げていた。

 

 

「よぉ」

 玄関の前で軽く挨拶する太助。

「凄い豪邸だったからさ…――呼び鈴押すのも気が引けたんだ。悪い」

「…いろいろ言いたい事があるんだが――」

 彼女は眉間に少しシワを寄せて、

「とりあえず何でアタシの部屋の場所を知ってる

そういう事は気にするな

 

 

 

「俺は、山野辺の言う通り…優柔不断なんだろうな」

 少し黙って太助は呟いた。

「…だから、お前は怒った――…」

「………」

「当然、だよな…」

「………」

 段々腹が立ってきた――何でアタシがコイツの為に悩まなくちゃならないんだ…

!?

「――…ありがと、な」

「………?」

 何で感謝するんだ? 怒鳴ってしまったと言うのに――…

 

「――…七梨、お前…――」

「…?」

「――も、やっぱり変」

「へ?」

「相当変なのはシャオだけだと思ってたけど、その彼氏、七梨 太助の方も相当変

 な奴だな、と思ってな」

「どういう意味だよ」

 少し気分を害された太助は、眉間に軽くシワを寄せて呟く。

「言葉通りだよ。変な奴だ。お前も――精霊の主ってのは、みんなそうなのかね」

 そう軽くいなすと、太助は馬鹿にされた様に思ったらしく、更にムッとする。

「それを言ったら――山野辺だってかなり変な奴だろ」

「――…」

「――物好きなお人好しで、根は優しくて素敵な人――とは言っても、後の2つは

 シャオの受け売りなんだけど」

 そう言って、他人の言葉とはいえ、かなり恥ずかしい事を言ってしまったと感じ

苦笑して誤魔化す。

 

「…七梨は、どう思ってる?」

「? どうって…」

 そう言って翔子は太助に詰め寄る――いきなりの言葉と行動に、太助は戸惑いつ

つ半歩後退る。

「七梨は、アタシの事『素敵』だと思う?」

「う……」

 彼女の誘うような笑みが段々近づいて来る――それに比例し、彼の心臓の脈打ち

が激しくなり――

(これは…ドラマとかでよくある…アレか!?)

 彼の思考回路は混乱――『コン・バトラーとボルテスはコンパチじゃないのか?』

だとか『ウルズ7とヒイロって目茶似てない?』等々…意味不明な事が高速回転―

―…つまり、混乱の真っ只中であった。

 

「あ…ああ、まぁ…な」

 

――何言ってんだ俺ぇぇぇぇぇぇっ!!

 

 心中で絶叫しつつも、既に遅く――肯定した事は取り消せ無い。翔子の方はと言

うと、その言葉に少し驚いたものの、再び微笑し、更に顔を近づけ、ゆっくりと目

を閉じた――

 

(おいおいおい〜〜ちょっちコレはやばいんでないのとっつぁん〜〜っ!(←錯乱

 状態))

 

 そうは言いつつも、身体は正直なようで――太助も、同じく瞳を閉じ、そして唇

を近づける…。

 

 

 

 

 

 

「…バカ」

 閉じた闇の中、その言葉が聞こえた瞬間、太助の額に痛みが走った。

 

 

「…痛っ…」

「浮気者。そんな事だから優柔不断なんだよ」

 やられた――…デコピンをかまされた額を摩りながら、太助は彼女の言葉に痛感

する。

 

「ハハハっ――でも、さっきのはちょっとばかし嬉しかったよ」

「……え…」

「それじゃ…シャオがお好み焼き作ってるんだろ――行こうぜ」

 そう言って踵を返し七梨家の方を振り向く――

 

 

 

「シャオがいなかったら、ホレてたかもね♪」

 

 

 

 

 

 その彼女の去り際の笑顔に、太助はただ呆然と、顔を赤らめる。

 

 

「…って、待てよ――今の言葉…!」

 

 そう声を上げ、彼は翔子の後姿を追った――

 

 

 

 

 

 

 息を切らし走りながら、彼女は空を見上げる――

 

 

 その空は夏を感じさせる、真っ青な空が彼女を見下ろしていた。

 

 

 

 

<おしまい>

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

またまた私には無縁なSS(爆)

…でも、ラストは結構自分でも好きです。特に去り際の一言だが。

…まぁ、何時かは書きたかったネタなので、機会をくれたハルカ様に感謝感謝です♪

ついでに、後日談を言うと、

 

その後、ルーアン殿がシャオと同じく商店街のクジ引きで『もんじゃ焼きの元』10

人前を手に入れて帰ってきます。

 

…あー、最近お好み焼き食べてないなぁ〜――食べたい食べたい…

 

誰か作って下さい(滅)


 

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