アリティアの夜に…前編

 

 

グルニアの内乱に端を発した英雄戦争は、徐々に戦火を広げていた…
氷龍神殿で大賢者ガトーから、光と星のオーブを受け取ったマルス達はハーディンを止めるために、アリティアに進撃した。
激戦の末、アリティア城を奪回し、同盟軍はアカネイア進撃のための橋頭堡を確保したのであった…

アリティア城奪回に成功した日の夜…
アリティア城の廊下を、騎士の姿をした青いショートカットの少女が歩いていた…

彼女の名は、カチュア…マケドニアの天馬騎士である…
マケドニアが世界に誇る竜騎士団と白騎士団…
その白騎士団で最強を誇っているペガサスナイト三姉妹の次女である…
姉のパオラ、妹のエストと共に幾多の戦場を駆け巡った、歴戦の戦士の一人なのである…
しかし…その外見は、とてもそのような戦歴の持ち主を感じさせない…
美しさと可愛らしさを兼ね備えた容姿、凛とした眼差し、短いが美しく、みずみずしい髪…
そんな魅力溢れた少女だった…


「…はあぁ…」
彼女は歩きながら、ため息をついた…
彼女には悩みがあったのだ…
(パオラ姉さん…エスト…)
彼女の悩みは…自分の姉と妹の事だった…
パオラとエスト…
二人の関係は良好そのものであった…
しかし、二人の間には一つの障害があるのである。
アベル…
アリティアの騎士だった男で、今はアリティアの城下で武器屋を営んでいる。
彼は…暗黒戦争の時に妹のエストと出会い、恋仲になった…
そして…ともに武器屋を営んでいるのだが…
それは…姉、パオラにとって心中複雑なものであった。
なぜなら…パオラもアベルに少なからず好意をもっているからだ。
二人は…姉妹でありながら、同じ人に想いを抱いていたのだった。
そのアベルとエストが揃って戦線復帰したのだ。
これからの事が心配だった…
次女のカチュアは、二人の気持ちをよく知っていた。
だからこそ、苦しい立場に置かれていたのだ。
二人が、それぞれ違う人を好きになったのなら応援する事はできた。
でも…二人は…同じ人を好きになってしまった…
応援などできるはずなどなかった…
カチュアにできることは…ただ祈るだけだった。
自分達…姉妹の関係が崩れない崩れない事を…
(…恋をする事は…誰にも止められない…か…)
カチュアは、止まらなくなった二人の想いの事を考えていた…
そして…
(私…自身も…)

カチュアもある男に、はかない想いを抱いていた…
その男の名はマルス…
アリティアの皇太子、同盟軍の盟主、アンリの血を引きし英雄…
この大陸に住む、全ての人々の希望を一身に背負う男であった…
(そう…人々の希望の光…そして…)
そして…タリスの王女、シーダと将来を誓いあった仲でもあった…
カチュアは一介の騎士である。そしてシーダは小国の王女である。
身分が違い過ぎた…皇太子であるマルスに自分が釣り合うはずがなかった…

いや…そんなものは…言い訳なのかもしれない…
なにより…二人は愛し合っていたのだから…
暗黒戦争の際、アリティアを追われたマルスはタリスに落ち延びた。
それから2年間…マルスはタリス王家の少女と共に暮らしてきた…
そして…暗黒戦争を、最後まで共に戦い抜いてきたのだった。
本当に…着実に…愛を育んできたのだった…
そして…この新たなる戦いがなければ、今ごろ二人は結婚式を挙げ、夫婦として幸せを満喫していたはずなのだった…

カチュアは…そんな二人の中に割り込む事はできないことを知っていた。
何より、そんな気はまったくなかった…
カチュアは…本心から…マルスの幸せを望んでいた…
それが…マルスにとって最高の幸せなのだから…
自分に…とっても…
…それが…一番の…



「それにしても…ミネルバ様は何処に行ったのかしら…」
彼女が廊下を歩き回っていた訳は、主君ミネルバを探していたからだった…
今日の戦いで飛行部隊も善戦した。だが、これからアカネイアに近づくたびに敵の抵抗も激しくなるだろう。これからの戦いの事で、飛行部隊を束ねるミネルバと相談したかったのだ。
彼女は…戦場の外でも戦いの事を心配していた。
そんな真面目な少女だった…


彼女は廊下の先のバルコニーにさしかかった…
ふと…バルコニーに目を向けた…
そこには…

「!?」

彼女は…見てしまった…
そこに二人の人影があるのを…
いや…その二つの人影は、一つになっていた…
なぜなら…二人の男女が…抱き合っていたからだ…

月の光が、抱き合う二人を浮かび上がらせた…
その二人は…

(そんな…そんなぁ…)

それは…当然の取り合わせであったのかもしれない…
でも…カチュアにとっては…見たくは無い光景だった…

マルスとシーダだったから…

二人は…抱き合っていた…
マルスはシーダを強く抱きしめていた…
シーダもマルスの背中に手を回し、しっかりと体を寄せていた…
二人は…抱擁を交わしていた…

二人が顔を合わせる…潤んだ瞳で…

そして…顔を近づけていった…

(…いやだ…)

二人は…キスを交わしたのだった…

(いやあぁぁぁぁぁぁっ!!)

その光景を見て…カチュアはその場から逃げ出した…




廊下を駈け抜けるカチュア…
その目には大粒の涙が流れていた…
今のカチュアは思考が混乱していた。
ただ…走り抜けていくしかなかった…


どのくらい走った頃だろう…
彼女を呼ぶ者がいた。
「カチュア!」
彼女は立ち止まり、目を向けた…
姉のパオラだった…
「カチュア!一体どうしたの?」
「…ねえ…さん…」
「!?…一体どうしたの…泣いているじゃない!」
パオラがカチュアに駆け寄ろうとした…
しかし…
「ごめん…今は…誰とも…」
そう言って…彼女は、姉からも逃げ出した…
(今は…誰とも…)
「カチュア!!」
彼女は呼んだが、カチュアは立ち止まる事はなかった…
「一体…何があったの…カチュア…」
パオラは呆然とそれを見送るしかなかった…




その光景を…遥か遠くから、水晶で見ていた者がいた…

(…これは…面白い…)

水晶を覗きながら、その口に笑みが浮かんだ…






彼女は、いつのまにか城の外に出ていた…
郊外の木の所で…もたれながら泣いていた…
「…ううっ…ひっ…うっ…」
今…彼女は色々な想いに飲み込まれていた…

いつの頃からだろう…マルス王子を意識し始めたのは…
最初の出会いは、レフガンティだった…
レフガンティに配置されていたカチュアを含むミネルバの部隊は、同盟軍と刃を交わすことになった…
そこで初めてマルス王子を見かけたのだった
若く、勇敢な少年の事をカチュアはよく覚えていた…

そして…初めて言葉を交わしたのは、ワーレンを脱出した同盟軍にミネルバ様の意思を伝える時の事だった。
カチュアとしては危険な役目だった…
マケドニアの女王が反乱を計画しているなんて、あまりに突拍子もない話だったからだ。
同盟軍が罠と考えても仕方ない状況だった。
その時、自分は殺される可能性が多かったのだから…
でも…マルス王子は…自分を信用して下さった。
カチュアの目を見て、心配しなくていい、私にできることなら何でもしようと言ってくれた…
あまりに…眩しかった…
この頃からなのかもしれない…マルス王子を意識しだしたのは…
そして…カチュアは…後に同盟軍に参加して暗黒戦争を戦った…
戦いぶり…そしてその合間に見せる優しさ…
気づけば…マルス王子の顔をよく見つめていた自分を見つけたのである…

その後…マケドニアに戻り、復興に奔走していた時も、時折マルスの事を思い出していたのである。
シーダとの婚約の報を聞いたときは、素直に喜んだ。
マルス王子の幸せを祝福して…

でも…再び戦いは勃発した…
また…マルスと共に戦う事になったのである。
再び…マルスの傍にいることが多くなり…想いが膨らんでいった…


……
カチュアは再び、先ほどの光景を思い出していた…
マルスとシーダの二人だけの一時を…

…再び…涙が出てきてしまった…
確かに…自分がマルス王子の事を想っていたのは事実だった…
でも…かなわぬ恋ということも知っていた…
だから彼の幸せを、なによりも願っていた…
今…その幸せを王子は手に入れているのに…
…どうして…

「…私は…どうして…しまったの…」

彼女は…口に出して、自分の激情の意味を考えていた…


「簡単な事だ…お前は悔しいのだ。」
突然、あたりに声が響きまわった…

「!?…誰?」
カチュアは突然の語りかけてきた声に驚きながらも、周りを見渡した。
しかし…声の主は見えない…
それでも…声は続く…

「お前は…悔しいのだよ…自分の想う男が、他の女の物になるのが…」
「!?…何を言っているの?私は…ただ…」
「ふふふっ…なら、なんであの場から逃げたのだ?なんで泣いておるのだ?奴の幸せを望んでいたのではなかったのか?」
「それは…」
カチュアは返答に困った。それは自分自身も、どうして逃げ出したのか分からなかったからだ…
「お前は…怖くて…そして嫉妬しているのだよ。幸せなあ奴らを妬ましく思っておるのだ。醜き女だな…」
「違う…違う!!」
だんだん…カチュアは追い詰められていった…

「ふふふっ…醜きお前に…罰を与えてやろう…」

その瞬間、彼女が先ほどまで寄り添っていた木に落雷が落ちた。
ドゴ―――――――ン!!!
木が真っ二つに割れ、燃え盛る…
カチュアは吹き飛ばされた…
でも…カチュアはうまい体捌きで吹き飛ばされた衝撃を緩め、うまく着地した。

「くっ…一体…」

木が炎に包まれている…その中から一人の男が姿を現した…
黒きローブに身を包んだその男は…

「あなたは…ガーネフ!!」
その男は…カダインの最高司祭にして、戦乱の元凶たるガーネフだった…
今の同盟軍にとって最大の敵の一人であった。

「ふふふっ…貴様に用があるのでな…ついてきてもらおう」
ガーネフはカチュアに近づいていった…
「何を!…私は、貴様になど用はない!」
カチュアは言い放すと、剣を抜き、構えた。
「お前ごときが…私に立ち向かえると思ってか?」
ガーネフの全身が、黒い光を放ち始めた…
「うるさい!」
カチュアは全力で切りかかった…
(よくも…よくも…誰が…嫉妬してるだなんて…)
あるいはその気迫は…今の自分の気持ちの混乱を…隠すためだったのかもしれなかった…
「愚かな…」
彼女の剣が…ガーネフに届こうとした…その時…


バシイイイイイイイイ――――ッ!!
彼女の体は…吹き飛ばされていた…


ドカッ!!
「がはっ!」
彼女は地面に叩きつけられた…

彼女の体中を激痛が走る…
あまりの痛さに、気を失いそうになった…
「ごほっ…がはっ!…」
「だから言ったであろう…愚かな娘だ…」
ガーネフはカチュアに近づいていく…
「…まだ…まだよ…」
カチュアはそれでも力を振り絞って立ちあがった。
「無駄なあがきを…貴様ではワシに触れることすらできないというのに…」
ガーネフは容赦なく、再び攻撃を放った…
最強の暗黒魔法マフーで…
「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!!!…」
満足に動けなかったカチュアは避けることはできなかった。
直撃を受け、倒れるカチュア…
「威力は弱めておいたからな…安心しろ。」

ガーネフは倒れたカチュアに近づくと、ワープの魔法を使う。
二人の姿は消えたのだった…







カチュアは…目を覚ました…
でも、周囲は真っ暗だった…
本当に自分が目を開いたかどうか…疑わしかった…

今、カチュアの体は闇の空間を漂っていた…
一寸先も見えなく、また何処までも続いていそうな暗闇だった…
「ここは…一体…」
カチュアは不思議な浮遊感の中にいた。
腕をを動かしてみる…動く…
しかし、だからといって変化が起きるわけでもない。
ただ…塵のように、カチュアは漂うだけだった…
(私…一体どうしたんだろう…)
カチュアは自分がなぜこのような場所にいるのかを考えた…
(…確か…私は…ガーネフに倒されて…)
記憶を失う前の事が蘇ってくる…
マフーの直撃を受けた自分…
(私…死んだのかな…ここは…地獄なのかな…)
彼女は…自分が死んだのかと思った…
だから…こんな暗闇に…


(!?…あれは…何?)
彼女は突然…暗闇の中に、光点を見つけた…
何が光っているのかは…遠くて見えない…
(何かしら…あれ…)
その光は…徐々に大きくなっていった…
いや…近づいているのだ…

「何!…何なの?」
その光は、カチュアをすぐ前まで来た。
その光の中には…


(!?)
カチュアは凍りついた…
「そんな…そんな…」

それは…つい先ほど見た光景だった…
カチュアが逃げ出した…あの…

(…どうして…どうして!)

光の中で…マルスとシーダが抱き合っていた…
二人だけの空間…熱き抱擁…そして…
そして…キス…

「やめてえぇぇぇっ!!!」

彼女は逃げ出そうとした…
今度は走れば、体が動く事ができた。
走れば、その光から離れられる…


彼女はその光景から逃げ出した…
(なんで…なんで…私、逃げるのよ…)
そう思いながらも…彼女はその光景から逃げ出す…


しかし…
彼女の先に、新しい光が現れた。
その中には、先ほどの光景が映っていた。
(そんな…また…)
彼女は、新しく発生した光点に恐れおののいた…
後ろを見てみる…
先ほど自分が逃げ出した光が、ゆっくりゆっくり迫っていた。
彼女は、今度は右の方向に向かって逃げた…
しかし…そこにも新しい光が出現した…
いや…そこだけではない…

いたるところに光が発生していた…
前後左右上下…だけに限らず、数えきれない数の光が次々と発生していた。
今は、暗闇よりも光の方が、周りを埋め尽していた…
その全てに、あの光景が映し出されている…
そのたくさんの光景が…カチュアに近づいてきた…

「なんで…なんで…こんなに…」
その光、いや熱き抱擁の光景に囲まれるカチュア…
もう、彼女に逃げ場はなかった。

彼女は観念したのか、もう逃げようとはしなかった。
既に、暗闇の空間は光が輝く空間に完全に移り変わっていた。
でも、カチュアの周りには暗闇が、靄のようにかかっていた…

「やめて…やめてよ…なんで…こんな…」
彼女の周りで繰り返される、マルスとシーダの幸せな一時…
それは、カチュアにとって拷問でしかなかったのである。
彼女は目を閉じ、その光景を見ないようにする…


しかし…今度は…
「……様……マルス様…」
「…シーダ…」

(!?)
聞き覚えのある声が聞こえてくる…
それは…周りで繰り返される光景の中の人たちの声だった…
「なんで…そんな…」
カチュアはあの時…二人をバルコニーで見かけたあの時…その会話まで聞いてたわけではない…
でも…今、彼女にはその時に交わされていたかもしれない会話が聞こえてきていた…

「マルス様…愛しています…」
「シーダ…僕もだ…愛しているよ…」

その言葉が、カチュアをさらに苦しめていく…
カチュアは耳に手を当て、その声が入ってこないようにした…

でも…
「…シーダ…」
「…マルス様…」

声は…聞こえてきていた…
(どうして?…一体…)

声は、カチュアの耳から入ってくるのではない…
カチュアの頭に直接聞こえてきていた。
耳を塞いでいても聞こえてくる愛の語らい…
カチュアにとっては残酷な…

「やめて!やめてぇ!…なんで…もう…」
カチュアは泣き始めた…

(もう…いや…もう…)
なんで、自分は…自分の愛する男が、他の女性と愛を確かめ合う情景を見なくてはならないのか…なんで愛の囁き合いを聞かせられなくてはならないのか…
(見たくもない…もう…聞きたくもないのに…)

もう…カチュアは、ただうずくまるだけしかできなかった…

全てを拒絶したかった…もう、なにも感じたくなかった…



「本当に…お前は醜い女だな…」

いきなり、聞き覚えのある声が響いた…
「!?…ガーネフ!」
「ふふふっ…やはり醜い女だったのだよ、お前は…」
「何を!!」
「お前は自分の想う男が、他の女と愛し合うのが許せないのだろう?だから目を背け、耳を塞いでおるのだろう?嫉妬と憎しみに塊なのだな…お前は…」
「そんな…違う!…私…」
「違わんよ…見てみろ、お前の周りを…」
カチュアの周囲は、例の光で溢れかえっていた。
しかし、カチュアの体には黒き靄がかかっていた…
「奴らは光り輝いておる…それはお互いに信頼し、愛しあっておるからじゃ。だから奴らは輝いておるのことできる…でも、お前はどうだ!暗闇に包まれておる…これはお前の心が、醜く、闇に囚われておるからじゃ。醜き心をちゃんと映し出しておるのじゃよ…」
「私が…醜い…」
「闇は…お前だけだ…」
そうだった…
もう、暗闇の空間は消え、光輝く空間に変わっていた…
でも、その中でカチュアだけが、闇の中にいた…

「この暗闇は…私の…醜さ…私の心の闇なの…」
「そうだ…これがお前の本性だ…」

カチュアは、ガーネフの言葉を受け入れ始めていた…
自分の心の醜さ…
それは、自分でも感じていた事だった。
マルスの幸せを受け入れられない自分…
マルスが他の女性と抱き合う事から目を逸らしてしまう自分…
自分の気持ちを抑えられない自分…
これらが、醜さ…なのかも知れなかった。

「…私は…醜いんだ…」

(そうよ…あなたは、醜いのよ…)

突然、カチュアの中から、声が聞こえてきた。

(!?…あなたは?)
その声は、続けられる…
(私は…あなた……もう一人のカチュアよ…)
(なんですって…)

もう一人のカチュアを名乗る声は、カチュアに語りかける…

(私は醜いのよ…本当に…だから私は我慢ができない!マルス王子が他の女と抱き合う事も、愛し合う事も…私には我慢ができない…)
(…あなたは何を言っているの!)

(認められない!マルス王子が他の女に取られるなんて!許せない…許さない!)
(違う!私、そんな事なんて思っていない!)
必死にその声に抗おうとするカチュア
(うそつき!醜い女のくせに…)
(それは…)
返答に窮してしまう…
(私は認めない!絶対に、マルス王子が他の女のところに行ってしまうなんて…絶対に認めないんだから!)
(私は…そんな…)
(渡しはしない…マルス王子をを他の女になんかに…渡すぐらいなら…)


(…マルス王子を…殺す…)


はっきりとその声が響いた…
(!?何をバカな事を!)
(渡したくなんてない…自分の好きになった人を…他の女性になんか…だから…殺す…殺して私も死ぬ…それで一緒になれる…ずっと…)

(違う!!そんなの間違ってる!私は…私は…)
(何を言っているの!私は、あなたなのよ…私の希望はあなたの希望でもあるのよ…)
違う…こんなの…私なんかじゃない…

(自分の希望を認めようとしないなんて…醜いだけではなく、バカな女なのね…)
(絶対…違う…そんな、自分の気持ちだけをおしつけるなんて…)
(いいわ…私がやってあげる。私がマルス王子を殺すから…だから…)
(!?…何を!!)
(あなたは…下がっていて…邪魔だから…)

その言葉が聞こえると同時に、カチュアに電撃のような衝撃が襲った。
「きゃああああぁぁぁっ!!」
(あなたは…少し、寝ていて…)
意識が遠のいていくカチュア…
「うううぅぅぅ…ぐはああぁぁぁ!!」
(おやすみなさい…)

…いやだ…いやだ…私…消えていく…





「ふふふっ…これでいい…」
ガーネフがカチュアを眺めながら呟いた…
今、カチュアはガーネフの前の台座に横になって、寝かされていた…
そのカチュアの胸に、黒く輝くオーブが置かれていた…



カチュアが目を閉じたまま、ゆっくりと上体を上げていく…
そのカチュアにガーネフは語りかけた。
「カチュアよ…お前の望みはなんだ?」

ガーネフが尋ねた…


「私は…マルス王子を殺します…誰にも渡したくないから…」

そう言って、カチュアの目が開かれた…

その目は赤く光っていた…

 

 

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