第1話 それは涙で始まった(脚本:長野洋 監督:山口和彦)

第1話の冒頭で花園ラグビー場が映し出される。「全国高校ラグビー選手権大会」の横断幕。
決勝戦「東京代表 城南工大付属高対神奈川県代表川浜高校」の試合が、まもなく行われる。スタンドには、川浜高校ラグビー部女子マネージャー杉本清美(諏佐理恵子)と 西村明子 (坂上亜樹)が、亡くなった元女子マネージャー 山崎加代 (岩崎良美)の写真を持って来ていた。同部OB 森田光男 (宮田恭男)その婚約者 富田圭子 (伊藤かずえ)と森田の姉・ 下田夕子 (和田アキ子)。夕子はこの決勝戦だけは見せたいと、胸にはしっかりと亡夫 大三郎 (梅宮辰夫)の遺影を抱えている。さらに同部OB 大木大助 (松村雄基)、 内田勝 (宮田州)、その父で川浜市市議会議員 玄治 (坂上二郎)らの顔も見える。元校長の 山城晋平 (下川辰平)とコーチの マーク・ジョンソン (チャールズ・モーガン)がダッグアウトに。またスタンドには、 滝沢賢治 (山下真司)の妻・ 節子 (岡田奈々)、愛娘の長女 ゆかり フィールドには城南工大付属高と川浜高校フィフティーンがウォームアップしている。城南工大付属高のラグビー部監督・江川恭司 もいる。そして、川浜高等学校教諭同ラグビー部監督滝沢賢治が立っていた。賢治は昨夜一睡もしていなかった。それは、高校ラグビーの頂点を決する戦いを翌日に控えた興奮からではなかった。川浜高校に赴任以来7年間のいばらの道が・・・。更にそれ以前の様々な思い出が寄せては返す波のように、賢治の脳裏を駆け巡り、眠りを奪い取っていたのだ。「とうとうここまで来た。とうとう。よくぞここまで来た」と。
その時、賢治の脳裏に一つの言葉が鮮やかに甦ってきた。それは、彼が初めて日本代表チームの一員に選ばれた時、オールジャパン監督・大北達之助 (近藤洋介)の教えである。
One for All All for One」。ひとりひとりがチームのために己を捨て、各々の責任を全うしてこそ初めて勝利が生まれてくる。そのために最も必要なのは勇気である。その勇気の源は、使命感であり仲間への連帯感だ。使命感と仲間を信じる心から奇跡は生まれてくるのだ。
信は力なり」。賢治は再び胸の中でつぶやいた。「そうだ。子供たちを信じることだ」・・・・・。
ジャッジマンのホイッスル。城南工大高のキックオフで決勝戦は始まった・・・・。
[続きはキャストファイルの滝沢賢治の経歴と現在、赴任までの経緯を参照]

第2話 泥まみれのニュースーツ(脚本:長野洋 監督:江崎実生)

ラガーマンとして数々の栄光に包まれた滝沢賢治は、現役引退後、川浜市立川浜高等学校校長、山城晋平の度重なる要請を受けて、同校の体育教師として赴任することを受諾した。
だが、今彼が赴こうとしている川浜高校は、想像を絶する荒廃の真っ直中にあった。教師に対する暴行、生徒間の傷害事件、飲酒、喫煙は優に及ばず、今日の学園の持つあらゆる問題を抱え込んだ学園であった。その問題校へ賢治は敢えて挑もうとしていた。
不安がないわけではなかった。だがその不安もラグビー部員たちの顔を見たら、消し飛んでしてしまうに違いないと賢治は信じていた。そうだ。もしかしたら彼らは、校門で整列していて待っていてくれるかもしれない。そう思うと賢治の足が軽くなった。
だが期待は見事に裏切られた。グラウンドへ行ってみたが、誰もいなかった。ましてや神聖とも言えるゴールポストが、へし折られていたのである。
賢治はラグビー部の部室に入った。そこにキャプテンの尾本(鈴木秀一)と内田が入ってきた。部室にいる滝沢に因縁を付けるが、この二人が元日本代表選手の「滝沢賢治」を知らないはずはない。知っているのに敢えて無視しようとしている。そして、平然とたばこを吸い出す二人。
俺はこんなチンピラヤクザみたいな連中を教えるために来たんじゃない。だがその時中学時代の恩師
藤山洋一の声「相手を信じ、待ち、許してやること」が甦った。
そうだ、俺はこいつらを叩き直すために来たのだ。賢治の心の中で消えかかった炎が再び燃え上がった。
部室を出た賢治は、廊下で出逢った2年1組山崎加代に案内されて校長室にやってきた。職員室での紹介を終えて、机が隣同士になった数学教師甘利(三浦浩一)が校内を案内してくれた。
しかし、校内は荒れに荒れ放題であった。バイクで廊下を走り抜ける生徒。見かねた賢治は甘利に詰め寄るが、「暴力事件になれば教師は馘首になる。教師も人の子で自分がかわいい」と聞かされた。目を向けた先の割れた窓ガラスの隙間から、ラグビー部員の練習姿が見えた。
賢治は監督もコーチも居ない練習で危険を予知していた。その矢先、内田が森田に「レイトタックル」をした。
森田は脳震盪を起こしその場に倒れた。賢治は森田を運ぶべく、折れたゴールポストを2本持ってこさせ、自分の上着で担架を作り出した。戸惑う生徒たちは加代に言われ次々にジャージを脱ぎ、担架を完成させて森田の家(中華料理店:新楽)へ運んだ。
その夜、森田は圭子から内田がやったレイトタックルは、この前の森田の姉にぎゃふんとやられた仕返しで故意によるものと聞かされた。逆上した森田は内田ら3年生に復讐しようとナイフを持ち出す。そこへ義兄の大三郎が泥まみれになった上着を持って現れた。
「どこへ行こうと勝手だが、滝沢先生の上着を始末してからにしな。お前がさっきグラウンドで目を回した時、先生はこいつで担架を作ってくれたんだ。多分こいつは先生の一張羅だ。その一張羅が泥だらけになるのもかまわねぇで、お前のために使ってくれたんだ。3年の悪たれ共に仕返しするよりも、こうまでしてくれた先生の気持ちを大切にする方が、先なんじゃねえか」森田はその言葉に打たれ思い留まる。
次の日、ラグビー部員たちは賢治が練習を見ているのを意識していた。賢治に教えて貰いたいのだ。賢治は山城校長に説得されコーチならと引き受けることにした。学校帰りに賢治は森田の家に上着を取りに立ち寄った。上着はクリーニングされていた。代金は光男の小遣いから支払われた。
森田は、照れを隠すように「借りを返しただけ」と賢治に強がって言った。
賢治は姉から聞かされた家庭のいきさつから、素直になれない光男の気持ちをくみ取り、心から「森田、クリーニングほんとにありがとう」と礼を言った。
翌日から賢治は部室の掃除をし、ラグビー部員たちと練習をした。こうして賢治の教師としての飽くなき戦いが始まった。
しかし、目指した学園浄化への道は遙かに遠く、日暮れて道遠しの感を深くするのみであった。ラグビー部でさえ3年生の反抗が依然として続いていたのである。
ある日の第1時間目1年2組の授業だった。賢治が張り切ってグラウンドに出ると、不良グループがソフトボールをしてグラウンドを占領していた。賢治は忠告に聞く耳持たない連中に教室へ帰るよう促すと、不良グループの堀井が賢治に金属バットを振り上げた。
このとき賢治はやられると思った。恐怖が賢治の背中を走った。だがここで逃げだしたらおしまいだ。賢治はラグビーから勇気を学んだ。その勇気の源こそが、今俺がやらなければという使命感から生まれるものでだった。
賢治は堀井に「やれるもんならやってみろ!だがなここは俺の教室だ。俺の戦場だ。ここで暴れた奴は生きたまま校門をださん。その覚悟ができてるんだったらそのバットを振り下ろせ。やってみろ!」と一喝した。
堀井ら不良グループは退散していった。しかしこのシーンは、ゆかりを幼稚園に送りに行った節子が一部始終見ていた。
帰宅した賢治に節子は、毎日あんな目に遭うのが耐えられない。学校を辞めるよう説得する。
賢治は「俺は辞めない。辞めたくても辞められないんだ。俺はあいつの目を見てしまったんだよ。あいつの目は腐っていなかった。その目を見たときこの子は決して俺を殴らない。信じてかけたんだよ。ラグビー部のツッパリ共もみんな澄んだ綺麗な目して居るんだよ。そんな目を持った連中に背を向けることはできん。あいつらの目を見た以上、俺はあいつらを見捨てることは出来ないんだ」と節子を説得した。
賢治は雨練習をしようと森田に持ちかけた。森田は早速部員に連絡を取った。しかし、翌朝集まったのは1・2年生だけだったが彼らはラグビーの楽しさを快く感じていた。部員らがドロドロになって部室に戻ると、加代が洗濯を勝手出る。私は今日からラグビー部のマネージャーになったと宣言する。部員一同感激する。しかし、3年生はそんな滝沢を快く思っていなかった。
その日の昼休みに内田が滝沢を呼びつけに来た。「ちょっと部室まで来て貰いてえんだよな」
部室では3年生たちがたばこを吸っていた。「あまりよけいなことはして貰いたくないんですよね。早朝練習だ、なんだって部長でも監督でもねぇあんたに、あれこれ指図されたくないんです。あのなー練習方法は俺たち3年生が決める。それがうちのラグビー部の伝統なんだ。元オールジャパンだかなんだか知らねえけれどよ。昨日今日来たばかりのあんたが出る幕じゃないの。解る?」
反乱であった。賢治のコーチとしての優秀な指導力に、上級生としての面子を失った3年生たちからの痛烈な絶縁状が、叩き付けられたのだ。賢治は目の前が暗くなるのを感じていた。

第3話 謎の美少女(脚本:大原清秀 監督:岡本 弘)

滝沢はラグビー部員全員からコーチの辞任を強いられた。1・2年生たちは3年生に脅されて、楽しさが解ってきた森田までもが「基礎ばかりでつまらない」と罵った。賢治は加代の説得にも自尊心を傷つけられたと辞任した。
山城校長に「壁にブチ当たったときは何はともあれトイレだ」と連れて行かれる。生徒用トイレは散々な状態であった。
そこで山城は「滝沢君。君をうちの学校へ引っぱって来たのは単なるラグビーのコーチじゃない。心のコーチとしてだ。君がラグビーのコーチを辞めるのは自由だが、心のコーチを辞めて貰っては困る。」
「学校改革など私ひとりの力では不可能です」
「ここにもうひとりいるじゃないかと」二人でトイレの修繕を始めた。「わしらの志さえ間違っていなければ、今にきっと協力してくれる人も増えてくるさ」そして、片づけももう一息というときに3年生不良グループらによって石が投げ込まれた。賢治は「ここは学校じゃない!戦場だ!」と叫んだ。
学校を立て直すにはどうすればいいか?賢治は教育の理想と現実のあまりにものギャップに悩んでいた。現場にいる賢治は、何からどう手を着けていけばいいのか見当がつかないでいた。
食事の前にゆかりがおもちゃの後片付けをするのを見て、口やかましく言ってもやらなかったのに、なぜするようになったのか聞いてみた。節子は「ただ約束をしただけ」と答えた。「約束したことは守る」当たり前のことだ。
無視されれば教育・人間の暮らしが成り立たないことに気づく。賢治は職員会議で「校則を守ることが基本」と先生方に投げかけたがラチが明かなかった。孤軍奮闘は覚悟していた賢治であった。賢治は翌朝からひとりで校門に立ち、おはようと声を掛け、生徒たちの服装や髪型を直すところからはじめた。
やがて甘利、柳(松井きみ江)らの先生方も協力してくれるようになった。それは一つの奇跡であった。賢治の熱意は大多数の生徒の胸に水のように染み渡り、賢治が校門に立ち始めてから1ヶ月後には、服装における校則違反は激減したのである。だが、賢治に刃を向けるのは不良グループとその影響下にある運動部である。ラグビー部の下級生たちも脅され、制服を着て登校した森田は殴られた。それが怖くて森田は上級生に言われるがままトイレを壊す。
ある夜、賢治は川浜高校OBと名乗る連中から夜襲を受ける。学校改革を推進している賢治への逆恨みである。
賢治は「いいのかね。教師が暴力事件を起こしても」の一言で無抵抗になり殴られ続けた。
翌朝、森田は壊したトイレを直す賢治の姿を見た。圭子に滝沢が壊したトイレを何度も直すと話した。
悪いと思ったら謝ればいいと言われるが先輩の仕返しが怖い。圭子に勇気がないと言われ発憤した森田は、先輩らに滝沢に謝ってほしいと頼むが、反抗した罰として神社の階段をウサギ飛びで150回往復する部の掟を強いられる。
賢治は止めに入ったが、森田は「俺にはラグビーしかない。部を除名になりたくない」と必死に耐えてウサギ飛びをする。
賢治はひたむきにラグビーを愛しているこの少年に一筋の輝きを見た。そして、賢治も同行することにした。残り回数も後3回に迫ったが、森田はダウンしてしまう。森田は先輩らに神社の境内まで引きずられたところに、
「いいかげんにしなさい!」と白馬に乗って圭子が颯爽とやってきた。圭子は馬術で先輩連中を追い払った。
森田は賢治に圭子のことを相談した。しかし、急に先輩の仕返しに怖くなった森田は部屋に戻ってしまった。
森田の部屋を大三郎が開けると、そこには制服を着た森田が立っていた。
「先生似合うか?俺、明日からコイツを着ていくよ。制服は嫌いだけどさ、先生だけは信じられる」
大三郎は気遣って今まで以上にしごかれると言うが、森田は「俺何度か耐え抜いてみせる」
続けて大三郎は「いつかの先生のように黙って殴られるのは勇気がいるんだ。それも相手の言いなりになるんじゃなくて、自分を貫き通すために殴られるんだからな」森田は「圭子もこの前勇気を出しなさいって言ってたっけ。俺、もっとましな男になったら、きっと圭子もちゃんと家を教えてくれるような気がするんだ。そう思っていいよな先生。先生って本当に泣き虫なんだな。先生頼む!もう一度コーチなってくれないか」
その翌朝賢治は、1・2年生のラグビー部員有志と共に早朝練習を再開した。当然3年生との摩擦は予想されたが、光男たちの熱意に押し切られたのである。グラウンドに帰ってくると川浜高校の番長、水原亮(小沢仁志)がラグビーボールを踏みつけながら立っていた。少年院から出てきたのだ。
水原は「てめえかよ、滝沢とかいうのは。俺がちょいと留守した間に、だいぶ手入れをしといてくれたそうじゃないか。だがな、まためちゃくちゃにしてやるぜ。俺はこの学校が憎い」そう言ってナイフでラグビーボールを突き刺し足で踏みつぶした。
心のコーチであろうとした賢治は、苦難への道へ、まだ第一歩を踏み出したばかりであった。

第4話 開かれた戦端(脚本:大原清秀 監督:江崎実生)

川は高校に赴任した滝沢賢治は、荒(すさ)めきった学園を立て直すべく日夜奮闘していた。その賢治の努力は生徒たちの胸に強く響き、学園には活気と平安が甦りつつあった。その時、ひとりの少年が賢治の前に現れた。少年院から舞い戻ってきた番長の水原であった。それは賢治への真っ向からの挑戦であった。学園は再び、水原ひとりのために荒廃の縁に引き戻されようとしていた。
そんな中で賢治は、彼を慕うラグビー部の1・2年生から請われるままに自主トレーニングの指導をしていた。それはあくまで賢治を拒否する、3年生部員の目を盗んでの秘密練習であった。一方、3年生部員と水原ら不良グループは、賢治を馘首すべく計略を練っていた。それは、賢治を怒らせて水原を殴らせ、暴力教師のレッテルをつけようというものだ。
早速水原らは授業中に麻雀をはじめた。廊下からそのザマを見た賢治は、耐えられずに教室に飛び込んでいった。
水原は賢治を挑発した。その時賢治は自分を怒らせて、殴らせようとする水原の策略を感じ取った。
しかし、どうにも血の高ぶりを押さえることは出来ず水原を殴ってしまった。
賢治の暴力事件は、職員会議で非難を浴びた。
山城は「私は人間が人を殴ることを許される場合が2つだけあると考えます。1つは生命の危険にさらされた場合。もうひとつは、親が涙ながらに子を殴るように、たとえ殴ったとしても信頼関係が崩れないと確信できる場合だけです。滝沢君、君の場合はどうでした?」
賢治は「水原を殴ったとき、私の中にあったのは憎しみと怒りだけでした。こんな悪はぶん殴らなきゃ解らないと」
「殴って何を解らせるのかね。殴って信頼関係が生まれるとでも言うのかね!」
山城の言葉に目覚めた賢治は、自分が軽率だったことを認め、今後ほかの先生の授業の妨害はしない。水原もほかの生徒も絶対殴らないことを誓った。
新楽で、賢治と甘利が食事中に水原の学力について、甘利がどうしようもないと連呼していた。
その会話に大三郎が口を挟んできた。「大学出の先生にはわかんないんだな。落ちこぼれ落ちこぼれってバカにされている連中の気持ちが。何年も何年も堅い椅子に座らされて、訳のわかんない授業を聞いているその苦しさと言ったら。ツッパルしか仕方がないんですよ。どうしようもねぇ、どうしようもねぇって簡単に言って貰いたくないですね。そのどうしようもねぇ生徒に、手を差し伸べるのが先生の仕事でしょうが」
賢治は、水原に勉強し直すよう説得した。明朝教室に来いと。
しかし、翌朝の教室に水原は来なかった。内田が変わりにやって来た。
「先生。俺に勉強教えてくれねぇか?きのう先生の話聞いてよ、俺もなんつうか将来のこと考えちまってよ。あっ、ノートも買ってきたんだけどよ」内田と賢治は二人で漢字の勉強を始めた。
書き順を間違えている内田に滝沢は「違うだろ。花はこの横棒が先だ」内田「先生。花って字、10書いたら花束みたいだぜ。100書いたら?」賢治「花園だな。花園になるまで書いて見ろよ」賢治は心の底からうれしかった。水原もやがてこのように素直になってくれるのではないか。そう信じられたのである。
水原ら不良連中は、バックの川浜乱世会への上納金稼ぎのため、ラグビー部員に腐ったパンを売りつけ金を巻き上げていた。
その現場を目撃した賢治は、水原を殴りそうになった。しかし、二度と殴らないと山城に誓ったことを思い出し留まった。
水原は、イタズラしても挑発に怒らない賢治に困り川浜乱世会の藤堂に相談する。藤堂は自分のためには怒らない賢治だが、家族への嫌がらせをすれば怒ると踏んで、チンピラたちへ節子たちを執拗に追尾させた。節子は耐えられなくなり、賢治に学校を辞めるように頼んだ。しかし賢治は、不良グループの卑劣な行動に負けるわけには行かなかった。
その夜、内田の父玄治は勝を愚連隊から連れ戻せと命ずる。内田勝は迎えに行った賢治を階段から突き落とす。
加代は、バイト先で賢治が階段から突き落とされたと聞き心配になり賢治の家を訪ねた。節子は、加代が家族のため朝晩働いていると賢治から聞かされ、逞しく生きるその姿に自分の恥ずかしさを覚え、賢治への学校を辞める願いを取り消した。
節子もチンピラ共をあしらい藤堂は目算違いだと気づき、ラグビー部員への不当な暴力を加え賢治を怒らせる計略を企てた。
しかし、殴られた森田たちは賢治のことを思い事実を拒んだ。
その日、内田が森田に乱世会が加代を狙うとの情報を漏らした。
翌朝部員たちは加代を守るべく河原に集合していた。そこに計画通りに川浜乱世会のチンピラ共が加代に因縁を付け、牛乳配達中の自転車を土手に突き落とした。部員らはチンピラ共へ一斉にタックル攻撃を開始した。チンピラ共が延びたところへ賢治がやってきた。
森田は得意げに「先生、先生に教わった通りタックルしたらうまくいったぜ」
賢治は「バカ野郎!チンピラ相手に乱闘するために、お前たちにタックルを教えたんじゃない。俺だってお前たちの気持ちがうれしい。だがな、俺は今もここに来る途中で、もしお前たちが怪我でもしてたらと思ったら。俺は、俺は・・・・・」
藤堂が現れ「先生、この落とし前はつけてもらうぜ。そのガキ共をこっちに寄越しな」
「この子たちがやったことは俺の責任だ。詫びなら俺がいくらでもする」すると水原がいきなり賢治を殴りつけた。
水原「先生よ、あんた耐える耐えるって簡単に言うが、これでも耐えられるかい」と再び殴りつけた。
賢治は「水原、殴りたければいくらでも殴れ。殴られるのも教師の仕事のうちだ。その変わり俺が俺が耐え抜いたら、今後この子たちには手を出すなよ!」
水原「よし!耐え抜けなかったら、あんた学校辞めるんだぜ!」と捨て台詞を言い、賢治をメッタ撃ちにした。
賢治はどんな不当な暴力にも可能な限り、耐え抜く姿勢を生徒たちに身を以て示したいと思っていた。
水原がいくら殴っても倒れない賢治を見て、藤堂も加勢をしはじめた。
そこへなんと圭子が来た。「二人がかりとは卑怯だね。野蛮人」
藤堂は圭子を見るなり、きびすを返すようにその場から立ち去っていった。賢治は圭子に助けて貰った礼を言った。
圭子は「今は良いものを見せて頂きました。倒されても倒されても立ち上がる先生の姿に、わたし光男さんと初めて会った時の試合を思い出しました。ラガーマンの真のファイティングスピリットを」
森田は「だけど圭子、お前は一体本当は何者なんだ」
圭子「わたしはわたしよ。レモンの好きな、ただの女子高生」と言い、持っていたレモンを森田に手渡し去っていった。
賢治とラグビー部員たちとの結びつきは一段と強まった。だが、謎に包まれた富田圭子の正体に、賢治は不安な予感を覚えていた。

第5話 最後の闘魂(脚本:長野 洋 監督:岡本 弘)

川浜高校の校風刷新を目指した、滝沢賢治の苦難の道は一部ラグビー部員たちの反乱から始まった。
だが賢治は挫けなかった。やがてその熱意は、ほかの教師たちへも波及し学園浄化への道は、ようやく明るさを見出しつつあった。しかし、その動きを快く思わない不良グループは、陰に陽に賢治とその周辺の人々への挑発を繰り返し、遂に凄絶なリンチへと発展した。
そのリンチに終止符を打ったのは、森田光男のガールフレンド富田圭子である。この娘と不良グループの間にいかなる関わりがあるのか、不吉な思いが賢治の胸を横切った。その日を境に、富田圭子の消息はぷっつりと途絶え不良グループの攻撃もなりを潜めた。
数日後、今回の暴力事件に対処する職員会議が開かれた。
賢治は「退学処分は彼らにとっては死刑にも等しい宣告です。もし退学になれば、一生消えることのない心の傷を受けることになるんです。私の顔の傷は2・3日もすれば治ります。彼らにとって一生の問題なんです。彼らの人生を我々が簡単に左右してもいいもでしょうか?」そう言って水原たちを退学させることに猛反対した。
その場で収拾は着かず校長預かりとなった。結果、水原たちは謹慎処分でことが済んだ。
賢治親子が、久しぶりの家族水入らずで買い物途中に水原らが現れた。「俺たちの退学を止めてくれたのはあんただってな。余計な真似しやがって。乱世会は手を引いても、俺は絶対に引き下がらねぇからな。卒業までにもうひと暴れも、ふた暴れもしてやるから覚悟してなよ!」
暮れの全国大会予選において、川浜高校はさして強いとも思われぬ対戦相手(北浜高校)に、1回戦でもろくも敗れ去った。
その試合を賢治は見に行かなかった。加代は賢治に試合の結果を報告しに職員室へ行った。
賢治「そうか負けたか」加代「1回戦くらいは勝つかと思ったのに」
賢治「勝てるはずがないさ。あんなチームが勝ったらラグビーおしまいだよ」
加代「先生!先生は自分の学校のチームが負けて悔しくないんですか?そりゃあ3年生たちがのけ者にしていることは知ってます。でも選手の中には下級生だって入っていたんです。先生にラグビーを教わった子たちだっていたんですよ。しかも試合があの人たち・・・・・」
賢治「どうしたんだ。試合が終わった後で何があったんだ。山崎!」
3年生たちは下級生たちにリンチした。
尾本「滝沢からなんかから妙なこと教わるから、こんなザマになったんだ。川浜のラグビーには川浜のやり方があるってことが、てめらにはわからねぇのか」
水原はリンチに加わらない内田に、焼きを入れるように命じた。内田は渋々リンチに加わわざるを得なかった。
賢治「内田までが?」加代「仕方がなかったんだと思います。でも殴ってる内田さんもかわいそうでした。おまけにその後でキャプテンが・・・・・」
尾本「これでお前たちの天下が来たなんて思うなよ。来年3月の卒業まで、ラグビー部のキャプテンはあくまでもこの俺だ。滝沢にシッポ振ってるおめたちに、川浜のラグビー部は決して渡しゃしねえからな」
そして下級生ひとりひとりに誓約書を書かせた。その内容は、森田たちが3年生になっても、賢治を監督に迎えることは絶対反対するという血判状であった。
賢治は「俺がいけないんだ。俺が余計なお節介をしたばっかりに。俺は川浜高校のラグビー部を、永久にダメにしてしまったんだ。俺は今後一切ラグビー部から手を引く。でも大丈夫だ。森田たちの代になれば、今までとは少しは違ったラグビー部になるだろう。そいつを期待するしかない」
加代「そんな!先生が辞めるなら私も辞めます」
賢治「いかん!君はマネジャーを続けてくれ。頼む。君は俺の心を解ってくれる数少ない生徒のひとりだ。今君まで辞めてしまったら、ラグビー部は空中分解してしまうんだ。頼む。辞めないでくれ」と、加代の手を握り説得する賢治であった。
賢治が教師になって最初の正月が訪れた。だが、賢治の心は鬱々として晴れなかった。教師となって9ヶ月。学園浄化への道はまだ遙かに遠く、好きなラグビーさえ思うようにやれない苛立ちが、賢治の心を更に重くさせていた。
ゆかりに凧揚げをせがまれ河原で遊んでいると、以前教えていたラグビー教室の子供らが賢治のそばに寄ってきた。
川浜高校が1回戦でボロ負けになったことを指摘された。
賢治は「タッチしていない」と言うと、「言い訳するな」となじられた。その通りであった。
賢治はかつてラグビー教室で指導するに当たって、「如何なる時も言い訳をするな」と厳しく言い続けてきたのだ。
賢治は子供らに「川浜高校の教師として恥ずかしい」と素直に謝った。
冬休みも終わり謹慎処分の解けた水原たちが学校に戻ってきた。
一方、森田は圭子に会えない苛立ちから登校を拒否しようとした。しかし、賢治に説得され授業を受けた。
放課後、圭子の学校で事情を聞いた賢治は、森田に圭子には父親が居ないことを話した。まだ彼女のことを調べるか森田に聞いたが、森田は彼女との約束を守るため彼女を信じて待つことを決意した。
3学期に入り校内は不気味なほどの静けさを保っていた。だが暮れの予選敗退以来ラグビー部の活動は、事実上ストップしていた。
3年生はすでにやる気を失い、下級生は3年生を恐れて賢治との接触を努めて避けようとしていたのだ。いまやラグビー部は有名無実の幻の運動部と化していた。それは賢治にとって耐えようもなく辛い事実であった。だが、いま下手に手を出せば事態は更に悪化することは目に見えていた。耐えるしかなかった。いまは黙って好転の兆しが現れるのを待つしかなかったのだ。しかし、待つことに耐えきれなくなった者もいた。それは森田光男であった。
賢治が市役所時代の仲間と飲んで、夜遅く帰宅するとゆかりが発熱していた。ゆかりのことで言い争いをしている最中に電話が鳴った。賢治が出ると、森田の姉夕子から光男が居なくなったとの知らせである。
賢治は、節子はゆかりのことを考えてと言う制止を振り切り、森田の家に向かった。
居なくなったのは、どうやら富田圭子のことが原因らしい。森田は学校の校庭でラグビーボールを蹴っていた。
そんな森田を見た賢治はふたりでランパスとキックの練習を始めた。賢治は気を取り戻した森田に、家へ帰って勉強するよう言い聞かせると、急いで自宅に戻った。
しかし、ゆかりが引きつけを起こし、救急車で川浜市立病院へ運ばれていたのだ。ゆかりは急性肺炎になり遅ければ危ない状態だった。
節子は「あなたそれでも父親なの?我が子が死ぬか生きるかの瀬戸際に、他人のために家を開けるなんて。ハッキリ言います。あなたにとっては、生徒はないよりも大切かもしれないけど、私にとっては、例え100人1000人の生徒よりも、たったひとりの我が子の方が大切なんです。わがままな女だと言われても否定はしないわ。でも母親なら誰でもそう考えるはずよ。いいえ、父親だって普通の人だったらそう考えるはずだわ」と賢治を執拗に攻めた。
家にひとり帰った賢治はウイスキーを呷(あお)った。
「何がいけないんだ。俺が何したって言うんだ。俺はいつだって一生懸命やってきた。ラグビー部の連中に嫌われ、番長グループに目の仇にされても、それでも少しでも学校が良くなればと思って頑張ってきたんだ。それなのに、それなのにみんな!!(賢治はグラスとボトルを床に投げつけ割った)解ってないんだ!誰も解ってないんだー!!」座っていた椅子を持ち上げ、叩き付けようとした瞬間、突然のある思いが賢治の身体を電流のように貫いた。
「あいつらも、もしかしたらそうじゃないのか?あの不良共も誰にも理解されぬ苛立ちから、非行に走ったのではないか」
賢治は今、自らが例えようもない孤独感に陥ったとき、初めて非行少年の心情を肌で感じ取ったのだ。
節子は賢治に実家へ帰る決心をしたことを話した。「私もしばらくひとりでこれからのことを考えて見るつもりです」
賢治が生徒たちとの間に横たわる壁を、一つ乗り越えたと思ったとき、妻節子との間には逆に冷たいすきま風が吹き始めていた。
賢治は山城に辞職伺いをした。
賢治は「教えて下さい。教師は自分の家庭を犠牲にしてまで、生徒のために走り回らないといけないんですか?」
「奥さんと何かあったんだね?そうか、そういうことだったのか。君たちの家庭をそんな風にしてしまったのは私の責任だ。それでも私は君の辞職は認めない。理由はただ一つ。生徒を見捨てることは許さない。奥さんは必ず君の元へ帰ってくる。君のことを誰よりも愛し、誰より理解している奥さんが、君を見捨てて立ち去るはずがない。だが子供たちは違う。今君に見放されたら、折角正しい道を歩み掛けた数多く子供たちが、また元に戻ってしまうかもしれんのだ。今度は私が訪ねる番だ。滝沢君。君はボールを持って突進してくる相手に、タックルもせずに逃げ出す気か?しっかりしろ。我々の試合はまだ始まったばかりじゃないか。頼むよ滝沢君。頼んだよ」
賢治の胸に再び熱い思いがこみ上げてきた。
賢治は水原の身上を調べた。父親は落盤事故で死亡。母は接客業。
今、賢治の脳裏にこれまでと違う水原の姿が浮かび上がりつつあった。滝沢賢治と生徒たちとの魂を掛けた真の戦いが始まろうとしていた。

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