ここはもう一つの世界。今でありながら現在でない場所。
このお話はもう一つの世界でのお話です。
「…っくしゅん!」
「…風邪か、兄上」
隣の席のプラチナが心配そうにアレクを覗き込みました。
もうすっかり季節は冬。
外は木枯らしが吹いています。
暖房もつけたばかりで、まだ教室の気温も暖まっていません。
外よりは暖かいものの、温度は少し肌寒いといえました。
「うん、大丈夫。誰かが噂してるのかなぁ」
とアレクがプラチナに言った瞬間でした。
落雷のような音をたて、教室前方のドアが開きました。
そこに立っていたのは息を切らせたサフィルス先生でした。
ホームルームの予鈴までまだ後十分ほどあります。
「アレク様、大丈夫ですか!? つい心配で早めに来ちゃいました」
そう言ってサフィルス先生はアレクの傍まで駆け寄ると、もって来た上着をそっとかけてあげました。
「この暖房、温まるまで少し時間がかかるんです。本当なら私が一番に来て、スイッチを入れて暖めておくべきなんですが、今日は職員会議があって出来なかったんです…。申し訳ありません、アレク様。風邪は引き始めが肝心です、今日は早退したほうが宜しいかもしれませんね」
「えっ、いいよ、ほら、元気だしっ! え、えと、サフィ…先生?」
あまりの剣幕のサフィルス先生に面食らったようにたじろいで言いました。
隣のプラチナは、アレクのくしゃみでここまで過剰反応するサフィルス先生がちょっと怖いな、と思いました。
「せ、先生だなんてっ! アレク様がそのような敬称をつける必要はありませんっ!」
「え、でもやっぱり先生って言う設定だしさー」
「いいんです、アレク様。アレク様はそのような設定を無視してくださって一向に構いません」
「う、うーん…」
「好きにさせておけ、兄上。そのほうが平和だ」
プラチナの一言にクラスの誰もが心の中で同意したのは言うまでもありません。
「では出席を取りますね」
アレクが元気なのがわかったのが嬉しいのか、陽気にサフィルス先生は言いました。
サフィルス先生は出席簿を取り出すと、一人一人の名前を呼び上げていきます。
まだ予鈴はなっていませんが、先生にとってそんなことは気にとめる必要もありません。
アレクの御身が一番大切なのです。
「えーっと、遅刻は…」
と、サフィルス先生が言いかけたときでした。
「っおい! 何でお前はいつもいつも予鈴の前に教室にいるんだよ!」
ロードが教室後方で大きな声で叫びました。
今日はギリギリ間に合ったと思ったのに、もうすでにサフィルス先生は教卓の前に立っています。
サフィルス先生は規律に厳しい人でした。
遅刻魔のロードはもう何回も罰掃除をさせられていました。
今日こそは連続遅刻記録を途絶えさせたと思ったのに、予鈴前に来られてはどうしようもありません。
サフィルス先生は自分より後に来たものは全て遅刻としていたのです。
「ロードさん、今日も遅刻ですね」
にっこりと、ロードにとっては悪魔のような微笑で先生はそう告げました。
「あのね、サフィルス先生、女の子は色々準備に時間がかかるのっ☆」
「でもロードさんは戸籍上は男なので関係ありませんね」
ロードは元は男だったのですが、トレジャーハントした宝の呪いにより女の姿に変えられていたのでした。
しかしすっかりその女の特権を生かし、のらりくらりと今まで交わしてきたのですが、サフィルス先生が担任となってから上手くいかなくなっていたのです。
「くっ…。大体贔屓が激しいんだよ、贔屓がっ! 何だよ、俺とアレクじゃ雲泥の差じゃねーかよ、不平等だ!」
「何言ってるんですか! アレク様の御身が一番大切なのは当たり前のことじゃないですか!」
サフィルス先生は生徒全員の前で真面目な顔をして言いました。
「うわ、公言しよった」
あまりの敢然たる態度に思わずルビイは呟きました。
「…堂々と言うか、普通」
「事実ですから」
開き直りとも取れる彼の発言を聞いて、ロードは肩を落としました。
そうです、もう誰も彼の暴走を止められる人はいませんでした。
今に始まったことではないのです。それを考え始めたらキリがありません。
「プラチナ様は大丈夫ですか?」
「ああ」
アレクの様子を見ていたカロールが口を開きました。
プラチナは成績優秀ですが、体がとても弱く、頻繁に学校を休みます。
病弱なのが唯一プラチナの弱点と言えました。
「カロール、俺らタメっちゅー設定なんやから様付けは変やろ」
それを言えばサフィルス先生もそうなのですが、敢えてそれを言う気にはなれませんでした。
ルビイの言葉を聞いて、暫くカロールは逡巡した後、はっきりとこう言いました。
「無理です」
「いや、そんな真顔ではっきり言われてもな〜。みてみぃ、俺なんて普通に呼べるわ。なぁ、プラチナ〜、プラチナ〜」
「…馬鹿の一つ覚えのように連呼しないで下さい」
「どこがや! 名前呼んどるだけやろ!」
「…そうですね、おにいちゃんはボキャブラリーが貧困みたいですから仕方ないんですよね。ねぇ、おにいちゃん」
「…お前めっちゃむかつくっ!」
「結局、似たもの同士じゃねぇかよ…」
程度の低い争いを聞きながら、ロードはため息をつきました。
「けんかはいけないのです〜」
「お、クラスの和み系ペット様のご登場か」
「ボクはペットじゃないのです〜! ほこりたかきアプラサスなのですよ〜っ!」
とは言えどもプラムの席はありません。
それではなくプラム専用のペット用の席が教室後方にありました。
なぜなら、プラムが歩くと毛が落ちるのです。
それは教室掃除班泣かせといえました。
四方八方に毛が落ちていては、掃除するほうは大変です。
「あ、俺、サフィからエ…じゃなくって、食べ物貰ったんだけど食べる?」
場の空気を呼んだのか、天性の勘なのかアレクがプラムに食べ物を差し出しました。
「うわーい、食べるのです〜」
「飼いならされとるやん…」
すっかりプラムに毒気を抜かれたルビイが呟きました。
確かにプラムはクラスの和みのようです。
後編へ続く
お、お遊び企画です。
生徒の設定は適当に決めています、すみません。
細かく考えようとも思ったのですが。
アレク:某財閥の跡取息子その一。天真爛漫。
プラチナ:某財閥の跡取息子その二。病弱、薄幸(なんとなく。イメージ先行で)の美少年。
サフィ:このクラスの担任。気苦労が耐えないが、結構自分勝手に統率している(笑)。実はアレクのお目付け役兼世話役
ロード:家業はトレジャーハンター。その中の宝の呪いによって現在女となっている(笑)
ルビイ:体育委員。剣道の腕は全国一。
カロール:実家は教会。ルビイとは異母兄弟。図書委員。
プラム:和み系ペット(滅)
うわぁ、適当っぷりが…(汗)
結局内容はないです、とほほ。
ただ単にみんなのやり取りが書きたかっただけなのかも。
そしてジェイド出せなかった〜(汗)。と言うことで後編に続きます。
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