シンデレラ→サフィルス
魔法使い→プラム

サフィルスの場合、第二幕。
(魔法使いから馬車と馬と従者を手に入れる場面)

「まだですかね…、プラムさん」
そわそわと落ち着かない様子で部屋の時計を見やる。
もう時刻は8時を回っている。登場予定時刻はとっくに過ぎ去っていた。
「プラムさんじゃないのです! 魔法使いなのですよ!!」
声のする方向を見ると、魔法使いらしい衣装に身を包み、プラムが嬉しそうにステッキを振りかざしていた。
「ボクがサフィルスさんのお願いをかなえてあげるのでーす! さあ、お願い事は何ですかー?」
「アレク様の元へ、あの城のパーティに参加したいのですが」
なんとなくシンデレラの話に近付いてきたな、と思いつつサフィルスは台詞を言った。
「ふふふふ、任せてくださいなのです!!!」
にっこりと楽しそうにそういうと、勢いよく勝手口のドアを開ける。
そこに広がっていたものは…。
「お菓子の馬車なのですー!!」
「…あの、かぼちゃの馬車という設定では…」
「かぼちゃの馬車より遥かに美味しそうなのですよ!」
「お、美味しそう…?」
確かに美味しそうではあるが、ここでの場面にそんな付加価値はいらない。
それ以上に乗り物として機能するのか大いに不安である。
「乗っちゃダメなのですー!」
中を見ようと乗り込もうとしたサフィルスをプラムが慌てて制止する。
「え…?」
「乗ったら食べられなくなるのです! 後でボクが食べるのですから!」
「そんなヘンゼルとグレーテルじゃあるまいし…。そうしたらどうやって城まで行けばいいんです?」
「歩いてです」
そこだけ嫌に真顔でプラムは告げた。
「え」
「ほら、こうしていても見えない場所にあるわけじゃないのですよ、お城は。ボクはこれからこのお菓子を食べるので忙しいのですー」
今にも食いつかんばかりといった様子である。
「あ、衣装はそこにあるのでちゃんと着て下さいなのですよ〜。ジェイドさんが持ってきてくれたのですー」
「ジェイドが?」
なんとなく嫌な予感が漂いながらも指差された箱の梱包を丁寧に剥す。
中には…。
「……ジェイド……っ」
「うわわわ〜素敵なお姫様の衣装なのです〜。あ、ジェイドさん、ガラスの靴まで用意してくれたのですねー! それを着れば立派にシンデレラなのですよ! たっのしみですねえー」
箱の中にはネックレス、イヤリング、ドレスそしてガラスの靴すべてが揃っていた。
ロココ風のドレスは薔薇色をしており、人目もよく引く。
人目を引くデザインは思いきりわざとだろう。
「こ、こんな女物の服が着れますか!」
わなわなと怒り心頭の様子でサフィルスが吐き捨てる。
「今も着てるじゃないですか〜」
「これは仕方なくです! 全くいつもいつもあの人は一体何を考えているんだか!! 文句言って来ます」
殴りこみの体勢を整えているサフィルスを、後ろからプラムが大きな手を使い羽交い絞めにする。
「あわわ、ダメですよ〜。そんな時間ないのです。王子がサフィルスさんのこと待ってますよー!!」
「……」
アレクの存在はサフィルスにとって効果覿面だったようではある。
すっと肩の力が抜け、諦めたように丁寧にドレスを折りたたみ箱の中にしまう。
が、その間相変らず目は据わっている。
「私はいつもの服装で行きますから」
いつもの服装というのはストライブのスーツということだろう。
「えええー! せっかく衣装があるのですのに」
「じゃプラムさんがこれ着て下さい」
「ボクじゃあわないですよー。意味もないのですー」
「とにかく! 私は着ませんからね! いつもの服装で行きます!! そうじゃないと、この馬車破壊しますよ」
有無を言わさないサフィルスの態度にプラムもそれ以上の説得は諦めたようである。
何より目が本気である。このまま説得をすれば確実に馬車を壊されてしまうだろう。
「そ、それじゃ、行ってらっしゃいなのですー」
ぶんぶんとサフィルスに手を振ると、プラムは嬉しそうにお菓子の馬車を食べ始めた。
もうすでに劇のことは完全に忘れているようである。
「結局何しに来たんでしょうか…、プラムさん…」
ガラスの靴だけ手に取ると、サフィルスは城へと急いだ。
そして、ステッキの意味が全く無かったことにいまさらながらに気づくのだった。

戻る 続く SSTOP


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