シンデレラ→サフィルス
継母、義姉→ロード、ルビイ、カロール

サフィルスの場合。

「ふう」
「お、終了したみたいやな。お疲れさん」
息をついたところで背後から声をかけられる。
振り返えるとそこにはルビイの姿があった。眠たいのか、ただ退屈なのか、普段とは対象的にひどく気だるいそうである。
「結局ルビイさんまで駆り出されたんですか」
「出番なくなりますよ、言われてな。ま、ええんとちゃんうん? どーせ皆暇してんねんから」
部屋の中央に配置されたソファに腰をおろす。
口ではそう言っているがルビイの態度からはやる気が感じられない。
「ほらほら、サフィデレラ。おしゃべりしている場合じゃなくってよ☆」
どんっとサフィルスを押すようにしてロードが話しかけた。
「ロードさん…貴方この劇を降りたんじゃ」
「お前がそんな格好でシンデレラやるって聞いて…っと」
今にも魔法を放ちそうなサフィルスの殺気に慌てて口をつぐむ。
サフィルスの衣装は薄汚れた布製れっきとした女物である。
スカートの裾はひらひらと風に煽られ揺れており、普段はストライブのスーツに包まれた足が見え隠れしている。
「まあ、今は俺が継母役だ。しっかり働け! ほらほらこんなところにも埃が堪って…」
「ないですよ。さっきそこ拭きましたから」
窓枠に指を滑らせたロードにサフィルスは抑揚のない声で告げる。
「…。食事の」
「用意もできてます。すぐ夕飯にしますか?」
ロードの言葉を遮って、サフィルスが言葉を次ぐ。
「……。なんって用意周到なんだよ。いいこと、サフィデレラ? これはお芝居なのっ☆ ちょっとはダメなところも見せないとお話にならないじゃない? 台本どおりに演じてくれないとロード困っちゃうっ」
「元々誰もちゃんと演じてないじゃないですか」
ちらりとロードを見た後、目線を横に滑らせる。
確かに自分は早々に放棄をしたが…と思いつつサフィルスの視線を辿る。
「何思いっきり寛いで読書タイムになってるんだ? あいつは…」
目線の先には一人読書タイムに耽っているカロールの姿があった。
視線に気づいたのか、ゆっくりカロールはこちらに向き直ると、
「僕のことは頭数に数えなくていいですよ。実を言えば参加自体不本意なんですが。特に喋らなくていいといわれましたので」
「ジルと同じかよ…」
後ろのソファではルビイが退屈そうに欠伸を交えこちらの話を伺っている。
「ちゃんと演技をしている人なんて居ないでしょう」
「お前さ、俺がシンデレラやってるときと意気込み違わねーか?」
ロードの言葉にサフィルスはふぅっと重く息をついた。
「アレク様が一生懸命演じていらっしゃるのに周りがそれではアレク様に失礼でしょう? 今回もアレク様のためのご奉公は苦でも何でもないんですが」
ふぅっと重いため息をつく。
「おいおい、なんだよ、ってことは役の上でも俺たちのために仕事するのは勘弁願いたいってことか?」
「まぁ単刀直入に言ってしまえばそういうことです」
はっきりきっぱりと言ってのけるサフィルスにロードは肩を落とした。
「なんか疲れた…」
「あ、やっぱりそうですよねぇ。元々この劇をやろうと、誰が言い出したんでしたっけ?」
「さあ? アレクじゃねーの?」
「アレク様はこんなこと…言い出すかもしれませんが、今回は違いますよ!」
ことアレクに関しては異常なまでの反応を見せるサフィルスに、ロードは余計な話題を振ってしまったと後悔するがもう遅い。
「私がこうしている間にアレク様に万が一のことがあったら…」
悶々と考え込むサフィルスにルビイが口を開いた。
「ほな、早う終わらせてしまえばええやん。あとはかぼちゃの馬車貰ろうて城へ行くだけやろ」
「そうですね! じゃ私は次の場面に移ることにしますから」
ルビイの意見に目を光らせると、サフィルスはばたばたと部屋を後にした。
「…本当に彼の視界には一人しか映ってないみたいですね」
「触らぬ神にたたりなしってな。坊主が傍に居ない参謀殿にはあまり関わりあいたくあらへんわ」
「全くだ」
残された三人はサフィルスが出て行ったドアを見る。
まだ見ぬ最終場面に思いを馳せてはため息をつくのだった。

戻る 続く SSTOP


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