さぁ始めよう、愉しいお遊び。
 小さな子供に幸せを。疲れた心に潤いを。
 
 さぁ始めよう、懐かしい遊び。
 誰もがしたことのある…ちいさなお遊び。








 視線の先を、仲よさげに親子が歩いている。
「ねー、お父さん、今日ね〜」
 嬉しそうに父親と母親の間ではしゃぐ子供に視線を向ける子供。
 …ずぅっとひとり。
 となりに誰かがいた記憶は?



 なぁ〜んにも無い。




 独りに慣れたはずなのに…なんだか無性に淋しくなる。
 お父さんと…お母さん。
 おんなじ年頃の皆にはいるのに…あのサスケにも両親の記憶はあるのに…。
 自分にはなんにもない。
 記憶を辿ってみても…ぶつかるのは視線だけ。
 冷たい…冷たいあの視線。






 印を組んで影分身。
 それから…それから?
 さらに複合させてお父さんとお母さんを作ってみる。
「今日は何があった?ナルト」
 優しい声で自分を見下ろすその視線に笑顔で答える。
「今日も任務だってばよ。もっちろん俺が大活躍!!」
 元気よく答えて……それから溜息。
「……バカバカしいってば……」
 どっちも演じているのは自分なんだから…お父さんも…お母さんも。
 なんだか哀しい気持ちになって…目に浮かんだ鼻水を拭う。











「アスマせんせ〜、紅せんせ〜〜〜!!」
 元気のいい声に二人が降りかえるとそこには桃色の髪。
 にこにこ笑顔で明るい表情につられるように2人も笑顔を浮かべる。
「お前たしか…カカシんとこの……」
 紫煙を吐き出しながら言うアスマ。その間に2人に追いついた少女は息を付きながら立ち止まりにっこり笑顔。
「はい、春野サクラです。……先生達今帰りですか?」
 二人を見あげながら笑顔のサクラ…その裏で、
『なんだか凄いお似合いの雰囲気漂わせてるわッ…シャ〜ンナロ〜〜!!もしかして二人デキテる???』
 なんて内なるサクラが絶叫しているのもお愛嬌、どうせこの二人にはわからない。
「ええ、偶然一緒になってね?…春野さんも任務の帰り?」
 優しい大人の笑顔で尋ねる紅に視線を向けたサクラはその年頃の子供にしか浮かべられないだろう笑顔。
「ええ、今カカシ先生と火影様に御報告してきたんです」
「…他の二人はどうした?普通4人揃って行くもんだろう?」
 もっともなアスマの意見にサクラは肩を竦める。
「そうなんだけど……あの2人、任務終わったらかえっちゃった」
 あくまで困ったように言うサクラの背後で思いだし怒りで燃えている内なるサクラ。
「…はは…まぁ、ガキってのはそんなもんだ」
 謎の気配に押されつつもアスマは笑いながら灰を地面に落とす。
「もうちょっと早く大人になって欲しいですよ、ほんっとガキっぽいんだから」
 サスケ君は別だけど〜♪なんて黄色い声で嬉しそうに言うサクラに呆れたように、けれどサクラにはわからないように苦笑し、アスマは紅を見遣る。
 …紅は、別の方向をじっと見ていた。
「んだ?…どうした?」
「……紅先生?」
 アスマの声にサクラも紅に気付く。声をかけながら視線の先を追い………。
「………ナルト?」
 そう、視線の先にはサクラの呟いた名前の持つ子供。
 独り淋しそうに仲の良さそうな親子を見て…それから独りで親子ごっこ。
「……そっか…あのこ……親いないんだった」
 思い出したように哀しげに呟くサクラの声を聞きながら…アスマと紅は胸が痛くてたまらなかった。


 独りの淋しさを作ったのは誰?
 誰でもない……自分たち大人。


 それでも差し伸べる術を知らない不器用な大人達は、自分の胸の痛みを無視するしかできなくって…。
 先ほどまでの明るい雰囲気はどこへやら、一気にその場の空気は哀しくて、重苦しいものへと変わる。

 少しでも胸の痛みを誤魔化そうと…誤魔化しにはならないけれど金色の子供から視線をそらし、桃色の女の子へと視線を向ける大人たち。
 その桃色の女の子は…独りで俯き何かを考えこんでいて……。


「…あのね…春野さん……」
 優しい女の子が心を苦しめているんだろうと、紅はなんとか慰めの言葉を吐こうと四苦八苦。
 それでも、上手い言葉なんか見つからない。
 あんたも何とかしなさいよ、とばかりにアスマを睨むと…アスマは「あ〜〜…」とか言いながら困ったように赤く染まる空を見上げる。
「あのな…春野……」
 どうせ上手い言葉なんかかけられないだろうけど、睨む紅の視線が思いの他恐かったので、声をかけようとするのと同じに、サクラはばっと視線を上げる。
「あのね、あのね、先生達」
 イイ事を思い付いたというように、顔を輝かせるサクラ。二人は顔を見あわせ…とりあえずこの少女の言葉を聞こうと顔を覗きこむ。
「なぁに?春野さん」
「なんだ?」

 そしてサクラが言った言葉に、2人は驚きの表情を隠せなくなる。
「イイ考えでしょ?」
 にこにこ笑顔のサクラ。2人は困ったように頬を書き…空を見上げ…そして溜息。
「……駄目…ですか?」
 哀しそうな声に焦ってサクラを見遣ればサクラはしゅんと肩を縮こまらせ俯いている。
「ううん…駄目じゃないの…ただ……驚いただけ」
 本当に、この年頃の子供は思いも寄らない事を言い出す。
 サクラの言った言葉が…あの金色の子供を傷つけるだけの結果に成りえないか悩んでいる大人達。
「じゃあ…いいんですか!?」
 嬉しそうに…本当に嬉しそうに笑顔を浮かべる少女に2人も知らず笑みが浮かぶ。
 結果がどうであれ…試すだけの価値はあるかもしれない。
 もし最悪の結果になっても…取り戻す時間はあるはずだから。
 この少女の笑みは、なぜかそんな事を2人に思わせる。
「あぁ、かまわねえよ」
 代表して答えるのはアスマ。紅も笑顔で頷く。
「じゃぁ…じゃぁ、…ナルトのとこにいこ!」
 言って走りだすサクラ。…二人はもう1度顔を見合わせ…そして優しい笑顔を浮かべた。






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