Sullen Boy 1
(1)
(…………風……?……どうしてだろう?)
リビングへ繋がるドアが微かに揺れたのに気付き、アキラはベッドから起き上がって
そろりと床に足をつけた。
ドアと床のごく僅かな隙間から確かに風が入り込み、アキラの素足を掠めていく。
真っ暗な部屋の中で、そこだけぼんやりと光を放つサイドテーブル上の時計に目を遣って、
アキラは小首を傾げた。
午前3時52分──まだ夜も明けていない。
アキラは頬を両手でピタピタと軽く叩くと、立ち上がり、足音を立てずにドアへと近づいた。
ドアノブを押さえ、慎重にそっと回す。
音を殺して手前に引くと、一気に風が入り込んできた。
少し驚きながらも、アキラは半分ほど開けたドアの合間を縫って、リビングに足を忍ばせる。
(あっ、窓が……)
アキラが寝る前には、リビングの窓は閉められ、ブラインドも下ろされていたはずだった。
今、ブラインドは完全に上げられ、ベランダへ通じる窓が50センチほど開いている。
風はそこから入り込むものだった。
深夜の街を照らす人工照明の光が窓から僅かに漏れ込み、リビング内をなんとか見渡せる
程度に照らしている。
目を凝らして室内を見回すアキラは、フローリングの床の上にだらしなく寝転がる人物を
発見し、肩を震わせながら小声でクスクス笑った。
(……芦原さん…あんなところで!)
タオルケットも掛けずに眠っている芦原は、寒がる様子もなく幸せそうな寝息を立てている。
(……緒方さんは……?)
部屋にはアキラと芦原の2人しかいなかった。
アキラは開いている窓の方へ歩み寄ると、ベランダを覗き込んだ。
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