Sullen Boy 16 - 17


(16)
 やがて、緒方はクローゼットの中の棚からタオルケットを取り出すとバスタオルと一緒に抱え、
リビングに消えた。
間もなく戻ってきた緒方は手に何も持っていない。
「なんだかんだ言って、緒方さんだって優しいじゃないですか」
「当たり前だ。オレは慈愛に満ちた男だと、さっき言ったはずだぞ」
 真顔でそう言うと、緒方は眼鏡を外してサイドテーブルの上に置き、アキラの横に腰掛けた。
「起きるのは昼頃だな。目覚ましはセットしないぞ」
 緒方は頷くアキラの頭に手を置き、ポンポンと叩く。
「アキラ君、踵落としはナシだぜ」
 そう言って楽しそうに羽布団の下に潜り込むと、布団を持ち上げてアキラを手招きした。
 アキラは素直に従い、緒方の横にピタッと寄り添うように横たわる。
仰向けになり、天井を見上げるアキラの前髪を緒方はそっと掻き上げると、額を優しく撫でてやった。
「……ボク、もう中学3年生なんですけど……」
 少し恥ずかしそうに頬を赤らめて抗議するアキラに、緒方は思わず笑う。
「そんなにピタッとオレにくっついて寝られると、ついつい昔のアキラ君にしたように、
これをやりたくなるのさ」
「……ボクも昔の癖で、踵落としをお見舞いするかもしれませんよ」
「それじゃあ、アキラ君が動けないように、羽交い締めにして寝るとするかな」
 緒方の言葉に一瞬ギョッとするアキラだったが、冗談だとわかっているのか、ゆっくりと
瞳を閉じた。


(17)
「安心して寝ろよ、アキラ君。そう遠からず、進藤は来るさ。」
 「進藤」の一言に、思わず閉じていた瞼を開くと、緒方の榛色の瞳をじっと見つめる。
「オイオイ、目つきが険しくなってるぞ。せめて寝ている間は、昔のあどけない寝顔に
戻ってほしいんだが……」
「緒方さんが『進藤』なんて言うから……」
 ムッとした口調でそう言うアキラの額を撫でて宥めると、緒方は苦笑した。
「なんだ、自覚してるじゃないか。進藤のこととなると人が変わると……」
 アキラはキッと緒方を睨みつけると、すぐさま緒方と反対方向を向いて目を閉じる。
緒方は笑いながら、自分に背を向けて横向きになったアキラに腕を回すと、耳元で囁いた。
「じゃあな、オヤスミ、アキラ君」

 しばらく黙ったまま目を閉じていたアキラは、緒方の寝息とおぼしき呼吸音が聞こえてくると、
目を開けて、自分の上に覆い被さる緒方の腕をそっと持ち上げた。
そのまま、ゆっくりと緒方の方に向き直る。
「おやすみなさい、緒方さん」
 緒方の寝顔を見つめながらごく小さな声でそう囁くと、アキラは瞳を閉じた。
だが、そんなアキラの背中を眠っているはずの緒方が「クックック」と小声で笑いながら
優しく撫でる。
アキラは顔を紅潮させながら、しっかり開いている緒方の瞳を再びキッと睨みつけた。
そして、すぐに恥ずかしそうに緒方の胸に顔を埋める。


 程無くして、アキラの穏やかな寝息が聞こえてくると、緒方は自身の胸に顔を埋めた
アキラの身体をそっと抱き寄せながら、静かに深い眠りの淵に身を沈めていった。

                                    【終】



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