座敷牢中夢地獄 1


(1)
――脇腹に鋭い痛みがある。
少年の身体は温かかった。


どんよりと曇った朝。
俺は旅先のこぢんまりとした旅館にいる。
朝食の後で茶を啜っていると女将がやって来て、ひとしきり客への言上を述べ上げた後
涼やかな声で訊いてきた。
「今日は、これからどうされますの?」
「・・・この辺りに幾つか古い史跡があるでしょう。それを見てまわってから国道に出て、
海岸伝いに次の土地まで歩こうかと」
「まあそうですか。でも今日はこんなお天気ですから、浜辺にはお下りにならないように
お気をつけくださいね」
「ああ、さっき天気予報でやってたが昼頃から雨になるらしいですね。危ないですか」
「それもありますけど・・・この地方じゃ、こんな天気の日に浜へ出ると悪い夢を見るって
云うんです」
「悪い夢?」
「ええ。こんな生暖かくて昼と夜の区別がつかないくらい暗い日には、海の底から色んな
ものが這い出てきて人を迷わすんだそうですよ。運が悪ければ帰って来られなくなるから
こんな日は浜に下りないようにって、亡くなった祖父に言い聞かされたものです」
「へえ・・・」
緑茶の苦味が舌を刺す。ふっと窓の外が暗くなった気がした。



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