断点-2 1 - 5


(1)

「和谷、いるか?」
声をかけながら控え室のドアを開けたら、そこにいたのは別の人物だった。
ソファに斜めに腰掛けて目を閉じて――眠っている?――塔矢アキラ。

そのまま部屋に入り、後ろ手で静かにドアを閉めた。
足音を立てないようにそっと近づいていった。

疲れてるのかな。
こいつがこんな風にうたた寝してるなんて。
「塔矢、」
すぐ側で声をかけてみても、塔矢は目を開けなかった。
間近に見る塔矢はやっぱりキレイだ。
頬にかかる真っ直ぐな髪。長い睫毛。白い肌。紅い唇。
どうして。
こうして見ているとドキドキしてきてしまうのは、どうしてなんだろう。
あんなに酷い事をされて、冷たくされて、それでも嫌いになれないのはなんでなんだろう。
髪にそっと触れてみた。
それでも塔矢は目を開けなかった。
「…塔矢、」
胸が詰まる。心臓の音が苦しい。目の奥が熱い。
塔矢、オレは……

気が付いたら身をかがめて、眠り姫のように静かに眠る塔矢に、オレはキスしていた。


(2)

唇を離すと、塔矢が目を開けてオレを見ていた。
「とう…」
何を考えているのかわからない、無表情な目。
わからないけれど、それでも真っ直ぐにオレを見ている。
どうして何にも言わないんだよ。
なんか言ってくれよ。
何も言わない塔矢を見てたら、なんだか泣きそうになってしまって、それを誤魔化すようにオレは
アイツの顔を睨み付けた。
それでも塔矢は何にも言わなくて、オレも何も言えなくて、オレは衝動的に塔矢の肩を掴んで、
もう一度唇を押し付けた。
掴んだ肩が不快そうに強張るのを感じた。
てっきり、また殴られる、そう思った。
でも、構うもんかって思ってたから、きっと多分オレは真っ赤な顔で、塔矢を睨んだ。
そうしてオレが必死に塔矢を睨みつけていたら、何も言わない塔矢の目が真っ直ぐにオレを見
据えたまま、アイツの手がオレの顎を掴んでぐいっと引き寄せ、オレが何かを考えるまもなく、
また唇が重なった。
塔矢の方から重ねられた柔らかい塔矢の唇の感触に、眩暈がした。


(3)

どうしよう。どうしたらいいかわからない。
自分の心臓の音がうるさい。
塔矢の唇が僅かに動くのがなんとも言えない感触で、自分の感覚の全部を唇に集中させて
しまっていたら、そこに何か別の感触のものを感じた。塔矢の舌がオレの唇を舐めてるんだっ
てわかって、反射的にビクッと逃げようとしたオレの頭を塔矢の手が押さえつける。
怖い。
でも逃げられない。
身体を強張らせてぎゅっと目をつぶった。
でもオレのそんな反応には構わずに、塔矢がオレの唇をこじ開け、オレの口の中に入ってくる。
なんだかよくわからない感覚に背筋がぞわぞわする。
目が眩んだ。
頭がくらくらして、何も考えられなくなった。
追い詰められる。
どくどくと流れる血流の音が耳元でうるさい。
もう身体に力が入らなくて、いつの間にか体勢が入れ替わって、組み敷かれるようにソファーに
もたれかかっている事にも気付いていなかった。


(4)

オレが混乱してる間に塔矢の唇はオレの唇から離れ首筋を辿りはじめる。
「好きだよ、進藤…」
耳元で囁いた塔矢の言葉が、ぼうっとしてたオレの頭に届くのには随分時間がかかった。
え…?何?今、なんて言った?塔矢。
スキダヨって、どういう意味だ…?
好きって…?誰が?誰を?
好き?塔矢が、オレを、好き?
「待っ…て、塔矢。」
本当に?塔矢。
本当なら、顔を見せて。オレを見てちゃんと言ってよ。
でも、塔矢はオレの首筋に顔を埋め込んでしまっているので、塔矢の顔が見えない。
でも、塔矢の顔が見えなくても、オレはその言葉に縋りたくて、いや、もうその時点でオレはその
言葉に縋り付いていた。頭の中をさっきの塔矢の言葉がぐるぐる駆け巡っている。
…好きだよ、進藤…好きだよ、進藤…好きだよ、進藤…好きだよ、進藤…好きだよ、進藤…好きだよ…
それなら、どうして?
オレの考えた事が聞こえたみたいに、塔矢の答えが耳に届く。
「君が好きだから、あんな事をしてしまった…許してくれるか…?」
ウソ…
本当に?塔矢?信じていいの?
泣きそうになりながらオレは塔矢にしがみついた。
「とう…や…」


(5)

塔矢の手がオレのシャツのボタンを外していき、胸元が開けられていくと同時に、アイツの唇が
オレの身体の上を降りていく。
カチャリ、と音がした。
ボタンを外していた手が、そのままベルトを外す音だ。
塔矢の手がそのまま下着の中に滑り込んでくる。
「やっ…んっ…!」
直接握りこまれて、オレは変な声をあげてしまった。胸元で塔矢がクスリと笑った気がした。
「ひっ…!」
と、次には乳首をペロリと舐められて、またオレは声をあげてしまう。
そのまま吸い付くように口に含まれて、舌先で捏ね上げるようにされて、何だかよくわからない
感覚にオレの身体は熱くなっていく。そして塔矢の手は、オレの熱を更に煽るように硬く勃ち上
がったオレを扱く。
「あっ、あ、とうや、もう…、あ、ああっ…!」
体中が熱くなって、オレの中心は塔矢の手の中ではちきれそうになって、オレは耐え切れずに
高い声をあげてしまった。
もう爆発してしまいそうだ、そう感じた時、ふいに塔矢の身体が離れた。
「とう、や…?」
曝け出された身体に空調の風を感じて、その冷たさがイヤな感じがした。
どうして?塔矢、急に…
不安になって目を開けて、そこに見た塔矢の表情に、その意味に、ぼうっとしていたオレの頭は
気付くのが遅れた。



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