tomorrow 1 - 5
(1)
また明日、そう言って別れたはずのキミが、なぜ今、ボクの目の前にいるのか。
キミは何をしに、何を言いにここに来た?
(2)
今日で北斗杯が終わった。
結果については何も言うまい。
終わってしまったという虚脱感と疲労を抱えて家に帰ってみたら誰もいなかった。
揚海さんから、父が台湾に行くと言っていたという話は聞いてはいたが、まさか今日出立するとは
さすがに思っていなかった。けれどテーブルの上に母のメモが残されていて、本当にもう台湾に
向けて発ってしまったという事がわかって、さすがに呆然とした。といっても明日早くの飛行機に
乗るために今夜は成田のホテルに泊まる、ということだったが。
なんだかすっかり脱力してしまって、レトルトものを暖めて食事代わりにしていた所に、母から電話
がかかってきた。
軽く話をして電話を切って、今日はもう何もすることが無いのだから、風呂に入って寝てしまおう。
そう思っていたところに、門の呼び鈴が鳴った。
こんな時間に誰が来るんだろうと不審に思いながらインターフォンをとったら、聞こえてきたのは
進藤の声だった。
(3)
あの、激烈な戦いの後、空虚な疲労感を抱えながら、だからこそ余計に美しく見えた、新緑と初夏
の光に溢れた中庭で、空を見上げて、キミは何を思っていた?
誰を、思っていた?
ボクはキミを見ながら、戦いの前の、そして破れた後の、キミの言葉と、それを受けて言った揚海
さんの言葉を、ずっと心の中で反芻していた。
遠い過去と、遠い未来をつなぐため。
キミが見ている、遠い未来の先にいるのは、誰だ?
そう問い詰めたい気持ちを抱えながら、全てを吹っ切ったように空を見るキミに、ボクはもしかしたら
見蕩れていたのかもしれない。
一体キミは、ボクの知らないどれだけの顔を持っているのだろう。
人目をはばからずに泣いていたキミと、物思うように空を見上げる横顔と、そしてさっきの、頬を紅潮
させ荒い息をつきながら、真っ直ぐにボクを見ていた、キミ。
なぜだろう。
キミが、キミだけがボクを混乱させる。
キミの存在だけが、いつもボクを何だか訳のわからない感情の渦に突き落とす。
いつもキミに対していて抱いていた「知りたい」という欲求が、どこに向かってしまっているのか、
ボクにはもう、わからない。
そして今このとき、キミはなぜ、ここにいる?
何のために、何を言うために、ここに来た?
そうだろう?何か、ボクに言うことがあったんだろう?
キミはずっと何かを言いたそうな顔をしていて、でも言い出せない、そんな感じだったから。
顔を見ていては言えないことでも、闇に紛れてしまえば言いやすくなるかもしれない。
一緒に寝ないかといったのは、それだけの理由だった。
(4)
それなのに、沈黙が重苦しい。
目覚し時計の秒針の音だけが静まり返った部屋に響いている。
早く、何か言え、進藤。
でなければキミは何をしに来たんだ?
何かボクに言うことがあったんじゃないのか?
早く。どうにかしてくれ、進藤。
なぜ、なぜそんな目でボクを見る。
まるでキミはボクの知らないキミみたいだ。
闇の中に浮かび上がる進藤の顔は、見た事もないような大人びた不思議な表情で、ボクは目を
逸らせなくなる。
そんな目で、ボクを見るな。
そんな、目で、見られたら、ボクは、
(5)
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