Sullen Boy 10 - 11


(10)
「ああ、賭けてもいいぜ。アイツは必ず戻って来るさ。アキラ君のいるところにな」
「……ボクのいるところ……」
「そうだ。キミのいるところだ」
「……………」
「もしオレの言った通りにならなかったら、バランタインの件は無かったことにしていいぞ。
どうする?」
 不敵な笑みを浮かべて挑発してくる緒方に、アキラはゆっくりと首を振った。
「賭は不成立か……。なんだ、アキラ君もオレと同じ方に賭けてるじゃないか」
 言葉とは裏腹に、緒方は予想通りのアキラの返答に満足している様子だった。
そんな緒方を頼もしそうに見つめながら、アキラは再びフェンスに凭れる。
「……忙しくなりますね、緒方さんもボクも……」
「ああ、そうだな。『追って来い!』と言った以上、オレもうかうかしてはいられないな。
何がなんでも碁聖のタイトルは手に入れないと……」
「すぐに追って行きますから、そのつもりでいてくださいね」
「宣戦布告とは勇ましくて結構なことだ。だが、その頃のオレは二冠どころじゃ済まない
かもしれんぞ」
「じゃあ、その時は緒方さんが取ったタイトルをボクが全部いただくことにしますよ」
「ハハハ!言うじゃないか、アキラ君。取れるものなら取ってみるんだな」
 そう言って緒方は楽しそうに笑うアキラの頬を軽く叩いた。


(11)
 ビルの谷間から顔を覗かせる朝日に気付くと、アキラは大きく伸びをした。
「……随分明るくなってきましたね」
「ああ……。アキラ君、また寝るだろ?」
「そのつもりですけど……緒方さんは?」
「オレもシャワーを浴びて寝るとするか。明日は特に用はないよな?」
 アキラが頷くのを見て、緒方はサンダルを脱いで部屋に入ると、アキラを手招きする。
「ここでちょっと待っててくれ。今、足を拭くものを持ってくる」
 緒方は足早に洗面所に向かうと、タオルを濡らして固く絞り、再びアキラの待つベランダの
入り口へと戻った。
「拭いてやるから足を出せよ、アキラ君」
「……自分でできますよ。子供じゃないんだから……」
「つべこべ言わずに出せ」
 そう言いながらも、既にその場に屈んでアキラの片足を自分の方に引き寄せていた緒方は、
丁寧にその足を拭きながら、アキラを見上げる。
「昔、こうやってアキラ君の足を拭いてやったことがあるぞ。覚えてるかな?」
「……いつ頃でしたか?」
「『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』の頃だ」
「……ボク、そんなこと緒方さんに言いましたっけ?」
 緒方はつれないアキラの言葉に、子供のように頬を膨らませた。
「なんだ……忘れるとはヒドイぞ」
「……でも、緒方さんさっき言ったじゃないですか。ボクは随分変わったって。あの頃のボク
じゃないんでしょ?『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』の頃のボクは、今のボクとは
違うんでしょう?」



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