座敷牢中夢地獄 10 - 11


(10)
釈然としない思いはあるものの、海で冷えた体に熱い湯が生き返る心地だった。
風呂から上がり廊下に出ると、心地良い涼気が体を包んだ。
先生やアキラはどこにいるのだろう。
と、左の方向からぼそぼそと低い話し声が聞こえる。あちらが居間だろうか。
声のするほうへと進み、灯りの洩れる部屋の中を何とはなしに覗き込んだ。
だがそこで目にした光景に、俺はぎょっと固まってしまった。

「お父さん・・・でも・・・」
「・・・他に方法があるのか?あるなら私とて・・・」
俺のよく知る二人が、ぴったりと抱き合いながら話をしていた。
正確に言うと、座った先生の膝にアキラが横向きに乗り、先生がそれを抱く形で
二人は話していた。
先生は小さな子供を寝かしつける時のようにアキラの体を軽く揺すったり叩いたりし、
アキラはそんな先生の首に両腕を回してしがみつきながら目を閉じている。
親子と言うよりは恋人同士が睦言を交わしているのかと見紛うような雰囲気にドキリとする。
それと同時に、俺の位置からちょうど良く見えるアキラの、せつないくらい幸福そうな
安心しきった表情に心臓を抉られた。
なんだこれはこんなものを俺に見せるな。見せないでくれ。頼むから。頼むから。

――脇腹に鋭い痛みがある。

頭を抱えて死にたくなるような気分に襲われて、思わず身を縮こまらせると
足の下でミシリと音がした。
その音で気づいたのだろう、先生がこちらを振り向いて「ああ上がったのかね。
こちらに来たまえ」と穏やかな声で呼びかけた。


(11)
「湯加減はどうだったかね」
「いいお湯でした」
俺が部屋に入って座布団を勧められる段になっても、アキラは何も聞こえないかのように
目を閉じたまま父親の膝の上から離れようとしない。
先生がそんなアキラの背中をポンポンと叩きながら促した。
「アキラ。おまえも風呂に入ってしまいなさい」
「・・・・・・」
アキラがむずかるように先生の肩に顔を埋め、イヤイヤをする。
「まだ寒い・・・」
「風呂に入れば温まるだろう?緒方くんに呆れられてしまうぞ。ホラ」
突然ダシにされても困るのだが。
先生がアキラの真っ直ぐな髪を丁寧に何度も撫でてやると、アキラは漸く名残惜しそうに
頭を上げ、傍らに置いてあった着替え一式を手に廊下へと出て行った。
その間アキラは俺を一瞥もしなかった。
古傷のような痛みが胸をよぎる。

「今日はすまなかったね。アキラが出てきたら夕飯にするから少し待っていてくれたまえ」
「はあ」
「・・・奇妙に思うだろうね。あれはもう大きいのに、さっきのような・・・」
「いえ・・・」



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