Sullen Boy 11


(11)
 ビルの谷間から顔を覗かせる朝日に気付くと、アキラは大きく伸びをした。
「……随分明るくなってきましたね」
「ああ……。アキラ君、また寝るだろ?」
「そのつもりですけど……緒方さんは?」
「オレもシャワーを浴びて寝るとするか。明日は特に用はないよな?」
 アキラが頷くのを見て、緒方はサンダルを脱いで部屋に入ると、アキラを手招きする。
「ここでちょっと待っててくれ。今、足を拭くものを持ってくる」
 緒方は足早に洗面所に向かうと、タオルを濡らして固く絞り、再びアキラの待つベランダの
入り口へと戻った。
「拭いてやるから足を出せよ、アキラ君」
「……自分でできますよ。子供じゃないんだから……」
「つべこべ言わずに出せ」
 そう言いながらも、既にその場に屈んでアキラの片足を自分の方に引き寄せていた緒方は、
丁寧にその足を拭きながら、アキラを見上げる。
「昔、こうやってアキラ君の足を拭いてやったことがあるぞ。覚えてるかな?」
「……いつ頃でしたか?」
「『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』の頃だ」
「……ボク、そんなこと緒方さんに言いましたっけ?」
 緒方はつれないアキラの言葉に、子供のように頬を膨らませた。
「なんだ……忘れるとはヒドイぞ」
「……でも、緒方さんさっき言ったじゃないですか。ボクは随分変わったって。あの頃のボク
じゃないんでしょ?『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』の頃のボクは、今のボクとは
違うんでしょう?」



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