誕生日の話 11 - 12
(11)
「緒方さんはアキラさんのお願いを聞いてらしたの?」
お母さんは冷え切った2人のために新しい紅茶を用意すると、それぞれの前にお
代わりを置きました。
アキラくんはすかさずコップを両手で包むと、紅茶で温まった手のひらをほっぺ
たに当てて『あたたかーい』と和んでいます。
「アキラくんがサンタクロースと話していたときは、別の部屋で待ってましたよ。
だから聞いていませんよ。――約束してましたから。ねえアキラくん」
緒方さんがアキラくんに話を振ると、小さな口を大きくあけてイチゴを口に放り
込むところだったアキラくんは、手を止めてきょとんと目を瞬かせました。
「クリスマスに欲しいものはさ、サンタさんとアキラくんの2人だけの秘密なんだ
よね?」
「うん」
こっくりと頷いたアキラくんは、今度こそイチゴを口に放り込んでその甘酸っぱい
イチゴの味を堪能しています。
「ちゃんと持ってきてくれるといいねぇ」
みんなの分も乗せてもらったイチゴをお父さんの口にも運んでいるアキラくんを
穏やかな気持ちで見つめながら、緒方さんはそんなことを言いました。
しかし、頭の中ではアキラくんが留守番電話に吹き込んでくれた『ボクの碁盤』
の入手ルートを懸命に検索しているのです。
(12)
今日の雨の日セットをはじめとして、どんなものでもアキラくんは大喜びして
くれるに違いないのですが、やっぱりアキラくんが思い描いているとおりのプレゼ
ントを用意したいというのが緒方さんの緒方さん的ココロです。
『ボクの碁盤』というからには、他の碁盤と何がしかの区別が付いたほうがいい
のでしょう。緒方さんは正面に座っているアキラくんをじっくりと観察しました。
アキラくんはお父さんに後ろからしっかりと抱かれて、ケーキを食べています。
「アキラ、袖に生クリームが付いてる」
「あっ、ほんとだ!」
アキラくんを膝に乗せていたお父さんが袖を摘むと、アキラくんは黄色のレイン
コートにぽってりとついてしまった白い生クリームを人差し指で掬い、それを口に
入れました。
アキラくんの手はまだ小さくて、小さな指とその先にちょこんと付いている桜貝
のような爪は、それでも碁石を立派に挟む事ができるのが不思議です。
そこまで考えて、緒方さんは突然ひらめきました。
――そうだ、小さな碁盤がいい。アキラくんに丁度なサイズの――
腕時計を確認すると、まだ棋院は開いている時間でした。緒方さんはしばらく逡
巡しましたが、決心して立ち上がりました。
何せ、タイムリミットはあと10日しかないのです。
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