Kids are all right. 11 - 15
(11)
「ヒカル君のお母さんが言ってたように、危ないことはするんじゃないぞ。
それが守れるなら、2人で噴水で遊んでおいで」
アキラは「うんっ!!」と大きく頷くと、早速靴と靴下を脱いで立ち上がり、
白いコットンシャツのボタンを外し始めました。
ヒカルも立ち上がって、ぐるぐる巻きにしていたタオルを取って、
くしゃくしゃに丸めてベンチに置きました。
シャツを脱ぎ、ズボンを脱ぐと、アキラは裸のヒカルを見て、少し戸惑った
表情を浮かべました。
「おぱんつもぬいだほうがいいのかなぁ、ヒカルくぅん……?」
もじもじしながらそう尋ねるアキラを見て、ヒカルは大きな声で笑いました。
「おぱんつぅっ??オマエ、ぱんつのことおぱんつっていうのかよぉっ!
おもしれーやつだなぁ!!まあいーやっ。ぱんつでもおぱんつでもいーから、
ぬいじゃえよっ!そのほーが、ぜってーきもちいーぜっ!!」
横にいる緒方も笑いを隠せない様子です。
「アキラ君、着替えを持ってきてないんだから、パンツがびしょびしょになると
大変だぞ」
アキラは耳まで真っ赤になりながら、おへそまで覆っていた白い柔らかそうな
コットンのパンツをそっと脱ぎました。
(12)
緒方はアキラの脱いだ服を綺麗に畳み、くしゃくしゃに丸めたヒカルの
タオルも四角く畳んでやると、ヒカルの肩を軽く叩いて囁きました。
「ヒカル君、アキラ君のこと頼んだぞ」
ヒカルは胸を張って「おうっ!!」と威勢よく答えると、アキラの手を
引っ張ります。
「いこうぜっ、アキラ!!」
アキラは「うんっ!!」とヒカルに負けず劣らず威勢よく返事をすると、
ヒカルと手を繋ぎ、照りつけるような午後の日差しの中を噴水に向かって
走り出しました。
(まだ4月だっていうのに、ヒカル君はもう肌が小麦色じゃないか……。
随分腕白な坊やみたいだな。真っ白なアキラ君と並ぶと白と黒の碁石みたいで、
なかなか面白いコントラストになるな)
裸で走ってゆく2人の後ろ姿を見つめながら、ふとそんなことを考え、
緒方は思わず苦笑しました。
(13)
最初は恐る恐る水の中で歩いていたアキラでしたが、ヒカルがジャブジャブと
勇んで噴水の中央に向かっていくと、負けじと勢いよく水を跳ね上げながら、
大股でヒカルの後をついて行きます。
大量に落ちてくる水で全身びしょ濡れになりながら噴水の中央まで来ると、
2人は他の子供達に混じって楽しそうに遊び始めました。
歓声を上げながらはしゃぐ2人の様子を欠伸混じりにのんびりと眺めていた
緒方ですが、遊んでいる子供達の母親とおぼしき女性達の、幾分冷ややかな
視線が自分に注がれているのに気付くと、はっと我に返りました。
(大方、オレはアキラ君の父親と思われているんだろうな……。まあそれは
それでいい。可愛らしいアキラ君の父親とは、なんとも光栄なことじゃないか。
問題は、こんな平日の真っ昼間に、オレのような若い男が子供連れで公園に
いる光景を世間一般の主婦がどう思うかだ……。お気楽な自由業者と思われて
いるのか?……まあそれなら構わん。ひょっとして専業主夫……?……オイオイ、
まさかただの失業者じゃないだろうな?違うッ!断じて違うぞォッ!!
……フッ、オレが囲碁界の明日を担う若手のホープ、緒方精次であることなど、
ここにいる女子供には知る由もないことだな……ハハハ!!)
(14)
延々とそんなことを考えていた緒方をびしょ濡れのアキラとヒカルが
心配そうな表情で覗き込みました。
「おがたくぅん、なんだかぶつぶついってたけどだいじょうぶぅ?」
緒方は驚いて「うわぁっ!!」と叫ぶと、ばくばく言う胸を押さえながら
言いました。
「2人とも、もう戻ってきたのかい?」
2人は一緒に大きく頷きました。
「もうってゆーけどさぁ、おじさん、オレたちけっこーながくあそんでたぜぇっ!」
ヒカルの「おじさん」発言に激しい目眩を覚えながらも、緒方は腕時計に
目をやりました。
ヒカルの言う通り、確かに2人が噴水で遊び初めてから既に2時間近く経過
しています。
ヒカルはベンチに置いてある大きなタオルを手に取ると、広げてアキラの
身体を包み込み、濡れた髪を拭いてやりました。
「いっぱいあそんでつかれちゃったし、くもがでてきてアキラがさむいって
ゆーから、いっしょにもどってきたんだよ」
緒方はヒカルに「ありがとうな、ヒカル君」と優しく言うと、アキラに服を
差し出しました。
「十分遊んだようだし、アキラ君はもう服を着た方がいいな。ヒカル君はどうする?」
ヒカルはアキラの髪を拭いてやりながら、しばらく考えていましたが、意を決して
言いました。
「オレもふくきるよっ!」
緒方はヒカルの母親が置いていったナイロンバッグを手に取り、ヒカルに
渡してやりました。
ナイロンバッグには、ヒカルの服とスニーカー、そして小さいタオルが
入っています。
(15)
ヒカルが小さいタオルで濡れた髪を拭き始めたのを見て、緒方は持ってきた
紺色のトートバッグからタオルに包まれたプリンを取り出しました。
手早くタオルを開き、中の保冷剤とプリンを出すと、タオルを軽く振ってヒカルに
差し出しました。
「ヒカル君の大きいタオル、アキラ君に貸してくれてありがとうな。プリンが
包んであったから、ちょっと冷えてるけど、このタオルも使うといいよ」
ヒカルは嬉しそうに頷くと、緒方に手渡されたタオルで身体を拭き、服を着始めました。
さっきまで空に見えていた雲は、もう跡形もありません。
再び強い日差しが照りつけ、2人の濡れた髪も一気に乾いていきます。
「2人とも、服を着たらこのプリンを食べるといい。遊び疲れてお腹が空いてるだろ?
また暑くなってきたようだから、冷えたプリンをおいしく食べられそうじゃないか」
ヒカルはスニーカーを履きながら、驚いたように緒方の持つプリンを見つめました。
既に服を着たアキラが、ヒカルに借りた大きなタオルを丁寧に畳みながら、ヒカルに
笑顔で言いました。
「そうだ、プリンがあったんだよっ!ヒカルくんはプリンすきかなぁ?
ボク、プリンだぁいすきなんだっ!!ヒカルくんといっしょにプリンたべたら、
きっとすごぉくおいしいだろうなぁ!!」
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