無題 第3部 12
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「緒方さん…」
アキラは思いきって顔を上げて、彼に声をかけた。
「ボクの事、怒ってないんですか?」
自分でも何を言っているのだろうと思い、そして、言いながら、この間の夜の事なのかと、後から
思った。自分の中にこんな感情があったのかと、思いもよらないような言葉で、彼を責め、なじった。
知っていた筈の彼の気持ちを踏みにじって、自分の欲望だけを押し通した。
その次の朝、彼のベッドで目を覚ました時、やはりこんな目をして自分を見詰めていた緒方がいた。
―怒っていないんですか?あんな酷い言葉であなたを責めたボクを。
アキラはそう言いたかったのだ。
「なぜ?オレがおまえの事を怒ったり、嫌ったりなんか出来る筈がない。そうだろう?」
そんな言葉を投げかけられて、また、アキラは戸惑った。
「いや、こんな言い方は卑怯だな。あれは、オレが怒るべき事じゃない。
おまえの言った事は正しい。オレはおまえに責められて当然の事をした。」
そう言われて、アキラは小さく首を振って、俯いてしまった。
そんなアキラを黙って見下ろしている緒方の視界に、見覚えのある黄色と黒のメッシュの髪の
少年の姿が映って、緒方の眉がぴくりと動いた。
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