Sullen Boy 12


(12)
 勝ち誇ったように見下ろすアキラを悪戯っぽく見返すと、緒方はフンと鼻で笑う。
「そうとも限らないぜ」
 言うや否や、拭いていたアキラの足の裏をくすぐり始めた。
「あァッ……ちょっと…やッ………ァンッ!………おが…た…さん………ヤダァッ!!」
「クックック。昔と変わらず可愛い声で鳴くじゃないか、アキラ君。だが、さっきも言ったように、
ここは集合住宅なんだが……」
 絶え間ない緒方の攻撃に、アキラは甘い鳴き声を上げながら、目尻を微かに濡らして身を捩った。
そんな中、緒方の背後である物体が妖しく蠢く。
「…………ウニャ?…………にゃんか……あったんれしゅかァ…………?」
 他でもない、脳天気な声の主は床に寝転がっていたはずの芦原だった。
上体だけ起こし、目を擦りながら硬直した2人の方をボーっと見つめる芦原は、寝ぼけているらしく
呂律が回っていない。
「……いや、なんでもない。ゆっくり寝てろ……」
 言葉こそ優しいが、屈んだままの緒方の肩は怒りに震えている。
「……ふぁぁい!……おやしゅみなしゃぁい……」
 言い終わらないうちにゴツンと痛そうな音を立てて再び床に寝転がった芦原に、アキラは心から感謝
しつつ、戦慄く緒方の手から濡れタオルを奪取した。
手早くもう片方の足を拭くと、目の前に屈む緒方の脇をすり抜けて、リビング内に足を入れる。
そっと窓を閉め、ブラインドを下ろすと、緒方の方に向き直った。



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