座敷牢中夢地獄 12


(12)
どうにも答えようがない。
それどころか、目の前の男の顔を見るのすら苦痛だった。
憮然と押し黙っている俺に、先生は気を遣うように言った。
「ここに来てから、あの子を少し甘やかしすぎたとは思っているのだよ。
だが、昔まだほんの子供だったあの子がプロの碁打ちを目指すと言い出してからは、
親子の情愛で馴れ合いすぎないよう私のほうが意図的に厳しく接してきた部分があってね。
本当はもっと世の親子のように普通の愛情を注いで育ててやるべきだったのではないかと、
ずっと悔いていたのだ。・・・だから東京での生活を捨ててここへやって来たことは、
碁打ち同士としてではなく親子としての関係を一からやり直す、よい機会だったと思って
いるのだよ」
淡々と話す先生の声は常と変わらず穏やかだ。
俺などの目から見ると、一粒種の息子に対する先生の態度は十分親馬鹿に見えたし、
碁という絆がある分、世間一般の親子より余程強い繋がりをこの父子には感じていた
ものだ。
ただ、一緒に遊んだりスキンシップしたりといった点について言うと、確かにアキラが
一定以上の年齢になってからは、この父子が近しく触れ合う姿をあまり見たことがなかった。
――だがそれにしたってさっきの光景は、ただの父子の触れ合いには見えなかった。
俺の、薄暗い劣等感が、物事を歪んだ目で捉えさせてしまっているだけなのか?

その時ふと、先生の傍らに碁盤と碁笥が置いてあるのに気がついた。
こんなに近くにあったのに今まで気づかなかったなんてどうかしている。
――もしここでこの人に勝てたなら、何かが変わるだろうか?
俺の視線に気づいた先生が目を上げた。
「君も碁をやるのかね?」
「はい」
対局の運びとなった。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル