Sullen Boy 12 - 13


(12)
 勝ち誇ったように見下ろすアキラを悪戯っぽく見返すと、緒方はフンと鼻で笑う。
「そうとも限らないぜ」
 言うや否や、拭いていたアキラの足の裏をくすぐり始めた。
「あァッ……ちょっと…やッ………ァンッ!………おが…た…さん………ヤダァッ!!」
「クックック。昔と変わらず可愛い声で鳴くじゃないか、アキラ君。だが、さっきも言ったように、
ここは集合住宅なんだが……」
 絶え間ない緒方の攻撃に、アキラは甘い鳴き声を上げながら、目尻を微かに濡らして身を捩った。
そんな中、緒方の背後である物体が妖しく蠢く。
「…………ウニャ?…………にゃんか……あったんれしゅかァ…………?」
 他でもない、脳天気な声の主は床に寝転がっていたはずの芦原だった。
上体だけ起こし、目を擦りながら硬直した2人の方をボーっと見つめる芦原は、寝ぼけているらしく
呂律が回っていない。
「……いや、なんでもない。ゆっくり寝てろ……」
 言葉こそ優しいが、屈んだままの緒方の肩は怒りに震えている。
「……ふぁぁい!……おやしゅみなしゃぁい……」
 言い終わらないうちにゴツンと痛そうな音を立てて再び床に寝転がった芦原に、アキラは心から感謝
しつつ、戦慄く緒方の手から濡れタオルを奪取した。
手早くもう片方の足を拭くと、目の前に屈む緒方の脇をすり抜けて、リビング内に足を入れる。
そっと窓を閉め、ブラインドを下ろすと、緒方の方に向き直った。


(13)
「……わざわざ拭いてもらって、どうもありがとうございました……。はい、これタオル」
 緒方の目の前にタオルを差し出すアキラの手も、心なしか怒りに震えている。
「オレに渡す前に、芦原の顔をそれで拭く気はないか?」
「……ありません……」
 立ち上がって、アキラの手からタオルを受け取ると、緒方は引き裂かんばかりに強くタオルを
引っ張りながら、忌まわしいものでも見るかのように、床に転がる芦原を見下ろした。
「昨日、オレは碁会所でアキラ君を夕飯に誘いはしたが、キサマを誘った覚えはないぞ……。
夕飯だけならまだしも、明日は日曜日だしとか適当な理由を付けて、コンビニで酒やら何やら
買わせた挙げ句、オレの部屋までノコノコとついて来やがって……」
「……ボクもついて来ましたけど?」
「アキラ君はコイツに引っ張られて、仕方なくついて来たんだろ?キミに罪はない。むしろ、
アキラ君なら歓迎するさ。……だが、コイツはだなァ……」
「……でも、ボク緒方さんのベッドを占領してるんですけど……。迷惑じゃありませんか?」
「未成年のアキラ君を深夜の酒の席につきあわせるわけにはいかないからな。キミは先に寝室の
オレのベッドで寝て、飲み終わってからオレはそこのソファで寝て、芦原は床に転がしておく。
実に合理的な方法だと思わないか?」
「…………」
 アキラは額を手で押さえたまま、しばらく黙り込んでしまった。



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