無題 第3部 14
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海王中で引き止められて、すっかり遅くなってしまった。
囲碁部の女の子達にキャアキャア騒がれて指導碁をねだられるのも、正直悪い気はしな
かったのだけれど、それでも、早くアキラに会いたい気持ちで一杯で、じれったかった。
次にヒカルが知っている所と言えば、アキラと初めて会った碁会所だ。
まだいるだろうか。もう帰ってしまっただろうか。
いや、それともここには今日は来ていなかったのかも…
焦りながらヒカルはエレベーターを降りると勢いよく、碁会所のドアを開けた。
「あら、えっと、進藤君?どうしたの?」
その勢いにびっくりしながら受付の女性がヒカルに尋ねた。
「あの、塔矢、いる?」
「あら、残念。今、緒方先生と一緒にお帰りになったわよ。
きっと緒方先生、車だから、今から駐車場にいけば間に合うかもしれないわ。」
教えられた駐車場へ、ヒカルは急いだ。
エレベーターが地下駐車場について、ドアが開いた瞬間に、ヒカルはアキラの姿を見つけた。
「とう…うわっ!」
勇んで出て行こうとしたヒカルの目の前を一台の車が通過した。
危ない、危ない。ここは駐車場なんだから。
深呼吸して、心を落ち着かせて、改めてアキラの後ろ姿を見た。
そして声をかけようとして、だが、アキラと一緒にいる人物に気付いて、なぜかヒカルはその
呼び声を飲みこんだ。
―塔矢と、あれは緒方先生?
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