座敷牢中夢地獄 14
(14)
「互先でお父さんとこれだけ打てるなんて凄い」
アキラの声に意識を引き戻された。
「・・・負けちゃったけどね」
「いえ、凄いです」
あの澄明な目がしっかりと俺を見据え、俺を肯定してくれる。
そうすると薄暗く塞いでいた胸の内が、少しずつ晴れていくような気がする。
「ありがとう。・・・キミのお父さん、強いね」
「!はいっ」
俺が父親のことを誉めるや、それまでとは比べ物にならないくらい弾んだ声で
嬉しそうに答える。
それを見るとたちまちまた胸の内に暗雲が差す。
「アキラ、お話なら後にしなさい。夕飯が冷めてしまう」
「はい」
立ち上がりながら、アキラが俺の耳元に顔を寄せて囁く。
軽い吐息が温かく耳に触れる。
「お父さんも久しぶりに強い人と打てて嬉しいと思います。ボクのせいで最近ちっとも、
他の人と碁を打っていないから・・・」
俺が見つめると、ちょっと寂しそうな顔をした後でアキラはまたニコッと笑った。
アキラの療養のため東京を離れたという先生の言葉が頭をよぎった。
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