Sullen Boy 14 - 15


(14)
「……芦原さんをソファで寝かせてあげませんか?緒方さんはボクとベッドで寝ればいいじゃないですか。
あのベッド、2人でも十分寝られる広さだし……」
 こめかみに血管を浮かせる緒方の顔を覗き込んで「ねっ?」と頼み込むアキラに、緒方は不承不承頷いた。
「随分芦原に優しいじゃないか。……まあ、コイツをベランダに放り出さなかったオレも、慈愛に満ちた
男かもしれんな、フフ。……オレがキミと一緒に寝るのは構わんが、その前にひとつ訊いておきたいことがある……」
「……なんですか?」
「アキラ君は昔のアキラ君なのか?」
「……は?」
「寝相のことだ。……オレは昔、キミに添い寝していて強烈な踵落としを鳩尾に食らった経験があるんだが……」
 アキラの顔が瞬時に耳まで赤くなる。
「……そんなことしましたっけ、ボク?」
「ああ、したとも。あどけない可愛らしい寝顔で、殺人的な一撃をお見舞いしてくれた」
「……それもやっぱり『おがたくん、プリンぷっちんしてっ!』の頃ですか?」
「そうだ」
 そんなことをした記憶が全くないのか、アキラは顔を紅潮させつつも、首を捻る。
その様子を苦笑混じりに見つめていた緒方は、アキラの背中を軽く叩いた。
「まあいいさ。取り敢えず、芦原をソファに寝かせるから、手を貸してくれないか?」
 アキラは頷くと、床に寝転がる芦原の肩を持ち上げる緒方を手伝い、その両脚を持ち上げる。
緒方が芦原の身体を手荒くソファに放り投げるのに合わせて、アキラも手を離した。
「…………ん〜〜〜…………」
 乱雑にソファの上に落とされた芦原は、起きる様子もなく、脳天気に爆睡し続けている。
芦原の姿に2人は思わず見つめ合うと、小声で笑い出した。

「オレはシャワーを浴びてくるから、アキラ君は先にベッドで寝てるといい。オレが寝る時に、起こすかもしれんが……」
「ボク、緒方さんが来るまで起きてますよ」
「そうか、悪いな」
 浴室へ向かう緒方に軽く手を振って、アキラは寝室に向かった。


(15)
 ベッドに腰掛け、サイドテーブル上の時計をチラリと見ると、5時を10分ほど過ぎている。
(6月って、夜明けが早いなぁ……)
 アキラはしばらくブラインドの隙間から差し込む早朝の光を見つめていたが、何を思ったのか
ベッドに突然仰向けになった。
片足を持ち上げると、力を入れずにそのままドスンと落下させる。
(……踵落とし……したかなぁ、ボク?)
 目を閉じて、同じ動作を何度か繰り返していたアキラは、間近に人の気配を感じ、
慌てて起き上がった。
「……まさか予行演習じゃないだろうな?」
 バスタオルを腰に巻き、引きつった顔でそう尋ねる緒方に、アキラはブンブンと
激しく首を振って必死に否定する。
緒方は肩をすくめると、クローゼットの扉を開け、中からアキラが着ているパジャマと
色違いのライトブラウンのものを引っ張り出し、手早く身につけた。
「これだとアキラ君には袖と裾が長かったかな?」
「ちょっとだけですけどね。でも、着ていてそんなに違和感無いですよ」
「そうか」
 どことなく嬉しそうに答えるアキラに、緒方は穏やかに笑って頷いた。



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