Kids are all right. 15 - 16
(15)
ヒカルが小さいタオルで濡れた髪を拭き始めたのを見て、緒方は持ってきた
紺色のトートバッグからタオルに包まれたプリンを取り出しました。
手早くタオルを開き、中の保冷剤とプリンを出すと、タオルを軽く振ってヒカルに
差し出しました。
「ヒカル君の大きいタオル、アキラ君に貸してくれてありがとうな。プリンが
包んであったから、ちょっと冷えてるけど、このタオルも使うといいよ」
ヒカルは嬉しそうに頷くと、緒方に手渡されたタオルで身体を拭き、服を着始めました。
さっきまで空に見えていた雲は、もう跡形もありません。
再び強い日差しが照りつけ、2人の濡れた髪も一気に乾いていきます。
「2人とも、服を着たらこのプリンを食べるといい。遊び疲れてお腹が空いてるだろ?
また暑くなってきたようだから、冷えたプリンをおいしく食べられそうじゃないか」
ヒカルはスニーカーを履きながら、驚いたように緒方の持つプリンを見つめました。
既に服を着たアキラが、ヒカルに借りた大きなタオルを丁寧に畳みながら、ヒカルに
笑顔で言いました。
「そうだ、プリンがあったんだよっ!ヒカルくんはプリンすきかなぁ?
ボク、プリンだぁいすきなんだっ!!ヒカルくんといっしょにプリンたべたら、
きっとすごぉくおいしいだろうなぁ!!」
(16)
ヒカルは屈託のない笑顔で話すアキラと、緒方を交互に見ながら、複雑な表情を
浮かべました。
「オレもプリンだいすきだぜぇ……。でもよぉ、そのプリン、オレがくっちゃったら
おじさんは……」
緒方はヒカルの再びの「おじさん」発言に僅かに引きつった表情で「ハハハ!」と笑うと、
ヒカルの頭を軽くポンポンと撫でてやりました。
「アキラ君と遊んでくれたお礼だよ。小さい子が遠慮することなんかないさ。
実はプリンだけじゃなくて、バナナも持ってきているんでね。おじさんはそれを
食べるから、2人は心置きなくプリンを食べるといい」
「オレ」と言うはずのところを反射的に「おじさん」と言ってしまった自分に
自己嫌悪を覚えつつ、緒方はトートバッグの中から2本のプラスチックスプーンを
取り出し、ベンチに並べた2つのプリンの容器の上に置きました。
ヒカルは心の底から嬉しそうに笑うと、大きな声で緒方に礼を言いました。
「おじさん、ありがとうっ!!すっげー、うまそーなプリンだなぁっ!!」
ヒカルの三度の、しかも周囲に響き渡るような大声での「おじさん」発言に、
危うく血管がブチ切れそうになりつつも、緒方は穏やかに笑いながら2人のために、
持ってきた麦茶をコップに注いでやりました。
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