座敷牢中夢地獄 16
(16)
「お父さん、お代わりは?」
「ああ。頼む」
空になった茶碗を先生がひょいと横に渡し、アキラがそれを受け取って飯櫃から
飯をよそう。
「はい」
「ありがとう。・・・ああ、じっとしていなさい」
「え?」
茶碗を受け取りながら先生がアキラの手を捉え、手首のほうへ指を伸ばす。
アキラの袖口に、飯をよそう時に付けてしまったのだろう白い飯粒があった。
アキラはそれに気づくと「あ、」と少しばかり極まりの悪そうな顔をしたが、
先生がそれを取り黙って自らの口に運ぶのを見ると嬉しそうに微笑んで、
またゆっくりな食事を再開した。
「・・・・・・」
目の前で行われたやりとりに、また心が不穏にざわつく。
何かがとても奇妙だ。
ここに来てからアキラを甘やかしすぎたと先生は言っていたが、確かに現実世界において
この父子の間に流れていた一種の緊張感のような雰囲気が、この夢の中の父子には見られ
なかった。
その代わりひたすらに甘く親密で、安らぎに満ちた空気だけがある。
ふと、アキラが幼い頃のこの父子の雰囲気はこんな感じだったと思い出した。
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