Trap 16 - 20

(16)
――それから、一体、どれくらいの時間が経ったのか。
アキラの秘処からは男達の精液があふれ、トロトロと流れ落ちていた。
瞳はぼんやりと宙を見つめ、唇は薄く開かれている。
情事後の余韻を残す熱い吐息が、まだ微かに漏れていて、
表情のないその顔には白濁の液が乾いてこびりつき、横たわる身体にも同じ汚れが付着している。
アキラの白い肌に点在する赤い痣のようなモノは強く吸われた痕だろう。
「――すげぇ…こいつ、マジによかったぜ…」
男の一人が放心したように呟いた。
他の男達も情欲に濡れた目で、アキラの淫体を眺めている。
「…どうする？　もう１ラウンドでも、オレはイけるぞ」
続いた言葉に、一同、顔を見合わせる。
まだ夜は長い。これから、また始めても、時間はあるはずだ。
リーダーの男は冷めた眼差しで、その様子を傍観していたが、ふと腕時計に目をやった。そして、
「……好きにしろ」　
言い捨てた。

(17)
異臭を漂わせ澱みきった空間で、無数の手がアキラに伸びた。
アキラの足が大きく開かれると、その間で萎えたペニスの先端が頼りなく揺れている。
男達はマスクの奥で好色そうな笑みを浮かべた。
クスリの効力が落ちてきたのか、アキラの瞳には徐々に正気の色が戻りつつある。
だがしかし、今、ふたたび欲望の饗宴が始まろうとしていた。
と、その時、
「――お前達、何をしている！」
突然、聞き覚えのない大声が倉庫内に響き渡った。男達は一斉にその方を振り向く。
「……」
アキラの睫毛が、ピクリと震えた。
そう、その声はアキラにとっては、聞き覚えのあるものだったのだ。
昔から知っている、馴染みのある人物の……。
「！アキラ君！？」
声と共に駆けて来る足音にアキラの意識が覚醒を始める。
乾いた唇が微かに動いて 「……さ…？」 呟きを放った。

(18)
入り口に見張りを立てていなかったとはいえ、突如、現れた乱入者に、男達は目を白黒させた。
「――な、何だ、お前！？」
予定外の出来事に、動揺を隠せない。
ただ一人、リーダーの男だけは冷静さを装い、厳しい眼差しで見つめている。
「………」
来訪者が足を止めた。
男達に囲まれている変わり果てたアキラの姿を間近に見て、一瞬、言葉を失ったようだったが、
「…その子を返してもらう」
低く絞り出すような声で、吐き捨てた。
と、その背後に、先ほどまで撮影を担当していた男が忍び寄る。
まさに後ろから襲いかかろうとした瞬間、
「――緒方さ…んッ！」
掠れがかった声で、アキラが叫んだ。

(19)
その声から察知したのか、来訪者−緒方精次−は、背後から迫った刺客の暴挙を、スッと身をかわして避け、
反対にその男の腕を取り、捻り上げてしまった。
「…痛ぇっ！」
マスクの男が情けない悲鳴をあげる。
緒方は感情を殺した冷ややかな眼をして、
「…アキラ君を解放しろ。でないと、こいつの腕をへし折るぞ」
言葉と共に実際に力が込められて、腕を拘束された男が「ひっ」と息をのんだ。
男達には大して仲間意識があるわけではなかったが、緒方は言った通りのことをするだろうという確信にも
似た空気が緊迫感を促していた。
どうするべきか…男達が戸惑っていると、
「――言う通りにしてやれ」
ふいに低い声が響いた。リーダーの男のものだった。
男達はその指示に従い、アキラから離れていく。
「………」
その様子を緒方はしばらく黙って見つめていたが、男達に新たな動きがないことを見届けると、
人質にした男を盾にするようにして、アキラの方へ歩いていった。

(20)
「…緒…方さん…」
アキラは近づいてくる緒方を見上げた。
助けにきてくれた、緒方さんが……。
ほっとすると同時に、涙があふれてきた。
意識はもうハッキリとしている。
薬が完全に抜けてしまったらしい。
そのせいで身体が忘れていた苦痛を訴え始めている。
アキラから少し離れた場所で、緒方は人質にしていた男を思い切り突き放した。
開放された男はよろけてコンクリの床に倒れこんだ。
アキラの側まで来た緒方は着ていたグレーのロングコートを脱ぐと、
それをアキラの晒された素肌にかけてやった。
床に座り込むアキラの位置まで自分も身を低くして、その耳元に小声で囁きかけた。
「アキラくん…オレが奴らの気を引くから、その隙に逃げるんだ」
「――」
意外な提案にアキラが目を見開く。緒方は続ける。
「倉庫の外にオレの車が停めてある。ドアの鍵は開けたままになっているから、
急いで乗り込むんだ」
「…緒方さんは…？」
「すぐに追いかける。だが…もしオレの来る気配がないようなら、君だけでも逃げてくれ。
……昔、遊び半分で車の運転を教えたことがあるだろう。人通りのある道まで出れば大丈夫だ」
「そんな…」
「他に方法がない」