無題 第3部 18


(18)
知っていた。わかっていた。だからこそ、自分はこの人に身体を委ねたのだ。
例え、最初のきっかけがなんであれ、他の誰でもなく、自分にはこの人が必要だったのだ、と
アキラは思った。
そして運転席の緒方の横顔をちらりと見上げ、それからハンドルを握る手を、シフトレバーを
操る手を眺めた。がっしりとした逞しい手は盤上の石を操る美しい手でもあった。
この手に憧れ、この人に近づきたいと思っていた事もあった。
緒方は自分が見られている事に気付いているのかいないのか、真っ直ぐ前を見て、運転
を続けていた。
塔矢家の門の前で緒方は車を止め、だがそれに気付かぬ様子のアキラに声をかけた。
「着いたよ、アキラくん。」
呼びかけに驚いた様子でアキラが顔を上げ、何か思い詰めたような表情で緒方を見詰めた。
「緒方さん、」
緒方の目が問うように真っ直ぐにアキラの目を見返していた。
「ボク…ボクは…」
アキラは言いかけて、けれど、小さく首を振った。
「…なんでもないです。ごめんなさい。送ってくれて、どうもありがとう。」
それだけ言うのが、精一杯だった。
緒方の車が去っていくのをアキラは見送って、そして久しぶりの自宅の門を見上げた。



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