無題 第3部 19
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いっそ、あのままあの人の部屋に連れて行ってくれればいいのに、とさえ思った。
あんな優しいキスをされたら、ボクの身体は続きを期待してしまう。
求められれば、きっと拒めない。
なんて自分勝手でずるくて、浅ましい人間なんだろう。
自分は何もしないで貰えるものだけ貰いたいなんて。
もしかしたら、自分の事を一番わかってくれるのはあの人なのかもしれない、と思う。
そしてあの人なら何があっても、どんな事があっても、自分を受け入れてくれるのだろう、とも。
それなら、なぜ今は、彼にそのまま委ねずにここで降りてしまったのだろう。
だって、そうして、ボクはまたあの人を利用するのか?
ボクの望むものにボクは触れる事が出来ないから、あの人の優しさに逃げようとするのか?
彼を忘れるために、彼を諦めるために、あの人を利用するのか?
きっと、あの人はそれでも構わない、と言うだろう。だけど、ボクは、そんな自分を許せない。
このままじゃいけない、とは思う。
目の前に道は二つあるのに、どちらに行っていいのかわからない。
いや、どちらに進む事も出来ない。
アキラは途方に暮れて自宅の門をもう一度見上げ、そして小さく溜息をついて、歩き出した。
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