座敷牢中夢地獄 19


(19)
「アキラくんが支えてきてくれたのか・・・すまない。重かったろ」
酔いのせいで頭が朦朧とする。なんてザマだ。
「大丈夫です。それに、ボクが最後の一杯を勧めなければこんなことには・・・
今お布団を敷くので、少し待っていてくださいね」
そう言いながらスラリと押入れを開け、布団を引っ張り出そうとする。
「ああ、いいよアキラくん。後で自分で敷くから」
「ちゃんとお世話するようにって、お父さんに言われてるんです」
またお父さんか。
お父さん。お父さん。
いつだってキミはそうだった。
「アキラくん。布団はいいから、こっちに来てくれないか」
「?はい」
アキラは素直にこちらへ来て、俺の傍らにすとんと正座した。
「・・・・・・?」
柔らかな微笑みを浮かべながら少し首を傾げて俺の言葉を待つアキラを眺めやる。
まだほんの赤ん坊の頃から、父親と母親両方の面差しを写す端正な顔立ちをした子だった。
幼い頃林檎のようにつるつると明るい色に色づいていた頬は今はしっとりと白く色褪せて
いるが、その透けるような肌膚の清らかさはあの頃から変わらない。
俺を見る黒い目の澄明な美しさも、まだ俺が誰とも認識せずにただ動くものを目で追って
いたのだろう赤ん坊の頃から変わらない。
棋力が伸び悩んで重く気が塞いでいた時も、派手なブランド品や横柄な態度で神経質な程
身を鎧わずにいられない自分に空しさを感じた時も、この澄んだ目に自分が好ましい存在
として映っているならばまだ捨てたものではないと思えた。
キミは知らないだろうが、気が遠くなるほど長いプロの道を歩む中、些細な事でぐらぐら
揺れて膝をついてしまいそうになる俺を、ずっと支えてきてくれたのはキミだった。

そうしていつまでも、キミに笑顔で駆け寄ってもらえる人間の一人であることに
満足していられれば良かったのに。



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