tournament 2
(2)
試合の始まる、少し前のことである。
西国からきた騎士は胸元から一枚の紙切れを取り出し、描かれた似姿をぎっと見据えた。
それは、密かに闇に出回っていた、姫の似姿であった。
どのような絵描きの筆をもってしても、姫の美しさ、高貴さを完全に写し取ることは困難であろう。
世に最高の絵師と知られた唯一人の筆によるもの以外は。
彼の持っていた似姿は、かの絵師の筆によるものではなく、それを似せたものではあったが、
それでも姫の美しさと、見るものを惑わす眼差しの妖しさは、見る度に彼の心を鷲掴みにした。
彼はその似姿を眺めながら、まだ見ぬ姫の美しさを思った。
このような筆致でさえ見るものの心を魅了する姫の、実際の美しさはいかほどのものであろうかと。
そして、噂に聞く姫の棋力の高さ、その強さを思った。
姫が強い騎士にしか関心を示さないと言う噂は、既によく知られていた。
姫と対等に渡り合える力を持った騎士でなければ、その名さえ姫の記憶には留まらぬのだと。
騎士としても、その強さには強い憧れと関心を抱いていた。だがその憧れを強い執着に変えたのは
今彼が食い入るように見つめている似姿の妖しいまでの美しさであった。
その似姿にはこんな戯けた言葉が添えられていた。
「一番強い人にボクをあげる」
その言葉を目で追って、西国から来た騎士はふっと不敵な笑みを浮かべた。
―― 一番強いのは、オレや。オレは、勝ってあんたを手に入れてみせる…!
そうして、その似姿を丁寧に折りたたんで、もう一度、胸元の隠しにそっと大事にしまった。
西国から来た、不敵な笑みを持つ若き騎士、その名をヤシロという。
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