座敷牢中夢地獄 2


(2)
荷物を纏めて玄関口まで出ると、客の少ない季節ということもあってか
女将と従業員たちがぞろりと整列して待ち構えていた。
こういうシチュエーションはあまり得意ではないのだが、無言で発つわけにもいかず
「お世話になりました」と軽く挨拶だけして歩き出そうとする。
と、女将が掌を空に向けて言った。
「あららら、もう降ってきた。お客様、傘はお持ちでらっしゃいます?」
言われて空を見上げると確かに一粒、軽い雨が鼻を目がけて落ちてきた。
「持ってませんがこれくらいなら・・・、本降りになってきたら途中でコンビニか何か
探してビニール傘でも買いますよ」
「この辺りにはコンビニも滅多にないから・・・そうだ!丁度いいわ。エッちゃん、
あれ持ってきて。えーと、あれ、お坊さんの傘」
「え?あ、はいっ」
小柄な仲居がすぐに駆けていき、細長い物を手に戻ってきた。ウッ、と思う。
それは鮮紅色の番傘だった。
「男の方がこんな色の傘を差すのは恥ずかしいとお思いになるかもしれませんけど・・・
これ、縁起物なんですよ。前にうちにお泊まりになったお坊さんが置いていかれた
ものなんです。ほら、柄のところにお経が書いてありますでしょ。このお経と赤い色が
魔除けになるんですって」
これさえあれば海からオバケが出てきても大丈夫、とにこにこ手渡してくる女将の
好意を無にするわけにもいかず、その赤い番傘を受け取って旅館を後にした。



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