Sullen Boy 2 - 3
(2)
「……悪いな、アキラ君。起こしたか?」
ベランダのフェンスに腕を掛けて深夜の街を見下ろしていた緒方は、言葉とは裏腹に
悪びれる様子など全くなかった。
手にしていた煙草を銜えると、視線はそのままにアキラを手招きする。
「緒方さん、サンダルは……?」
ベランダに出ようにも何も履くものがないアキラは、肩をすくめて緒方に尋ねた。
「オレが履いてるから……そのまま来いよ」
相変わらず街を見下ろしたまま、緒方はにべもなくそう言った。
憮然たる表情で素足のまま緒方の横に立つと、その横顔をキッと睨みつける。
「緒方さん、灰皿は?」
「このフェンスでギュッと消して、下へポイだ」
緒方は戯けて、手に持った煙草でジェスチャーして見せた。
「緒方さんっ!!」
緒方は窘めるアキラの頭に煙草を持ったままの手をポンと置くと、その顔を覗き
込んで意地悪そうに笑った。
「信じるなよ。オレがそんなことをするはずがないだろ」
楽しそうにアキラの頭をポンポン叩きながら、もう片方の手でスラックスの
ポケットを探り、赤い煙草の箱を取り出す。
「これが最後の1本だ」
箱の中身がないことをアキラに示すと、アキラの頭から手を離し、フェンスで
揉み消した煙草を空箱に入れて再びポケットにしまった。
(3)
「そんなパジャマ姿で寒くないか?」
緒方に借りたライトグレーのパジャマは薄い綿素材のため、6月とはいえまだ夜も
明けぬこの時間では、確かに少々肌寒い。
コンクリートのベランダに素足で立っているため、爪先は既にすっかり冷え切っていた。
「……ちょっと寒いですけど……」
本当はそんなことを言いたくない。
アキラはどことなくムッとした表情で、渋々答えた。
「なにせ裸足だしな」
自分のサンダルを履かせる心遣いなど毛頭ないのか、緒方はアキラの足元を見てそう
言うと、フンと鼻で笑った。
アキラは不機嫌そうに緒方を睨め付けはしたものの、飄々とした風情で再び夜景を楽しむ
緒方の様子に、仕方なく溜息をついて話題を変える。
「……で、こんなところで一体なにをしてるんですか?」
「別に……。ただボーッとしいてるだけだ」
期待外れな緒方の返答に、アキラは思わず天を仰ぐ。
「真実を言ったまでだぞ。何が悪い?」
「酔ってるんですか?」
お返しとばかりに、今度はアキラが鼻で笑った。
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