座敷牢中夢地獄 21


(21)
「アキラくん。・・・海で、何を探していたんだい」
暗い海に一人で入って探すくらいだ。余程大事なものなのだろう。
だがアキラは首を傾げて答えた。
「さあ・・・何でしたっけ」
「何でしたっけ、って・・・」
「よく憶えていないんです。ただ、ずっと昔何かとても大事なものを失くしてしまって、
それがあの海にあるような・・・そんな気がしたんです」
要領を得ないアキラの話に、少なからず混乱を覚える。
失くしたというのは昨日今日の話ではないのか?ずっと昔に失くした、よく憶えても
いない「大事なもの」のために一人で海に入った?
しかも聞いていると、それを失くしたのが海であったかどうかすら定かではないという
口ぶりだ。何故、他の場所ではなく海にあると、そう思ったのだ?
ふと、アキラがこの土地へ療養に来たのは身体の健康上の理由ではなく
精神的なものが理由となっているのでは、という考えが頭を掠めた。
そうであれば先生がやけにアキラを甘やかし、アキラも幼い頃に帰ったかのように父親に
甘えている奇妙な状況もなんとか説明がつきそうな気がする。
だとすれば二人の間に、――ただの父子と言うには不自然な雰囲気を感じ取ってしまい
そうになるのもきっと、俺の勘繰りすぎなのだろう。

「緒方さんはご存知ないですか?ボクの探し物」
アキラがぽつりと言った。
「・・・残念ながら心当たりはないな。とにかく、もう二度とあんな真似はしないと
約束してくれ。キミに何かあったら、お父さんだって悲しむだろう?」
出したくない名前だったが敢えて出した。それがアキラには一番効く気がしたからだ。
だが意外にもアキラは、ふっと寂しそうな顔で笑った。
「どうだか・・・」



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