Kids are all right. 21 - 23


(21)
「アキラ君、日焼け止めを全身に塗らなかったのは失敗だったなぁ……」
 緒方は湯船の中で頭を抱え込みました。
家に帰って、緒方と一緒に風呂に入ったアキラは、いつもなら何ともない
はずの温度のお湯に入れません。
緒方が急いで湯船から溢れ出さんばかりの冷水を足すと、ようやくそっと足を
入れたアキラでしたが、肩まで浸かると、急いで10まで数えて、慌てて湯船から
飛び出してしまいました。
 風呂から上がり、日焼けによる痛みでぴくぴく震えながら半泣き状態のアキラを
バスタオルで優しくくるんでやると、緒方は自身もバスタオルを腰に巻いて、
溜息をつきました。
とりあえずはアキラを抱き上げて、居間に連れて行きます。
 座布団の上にぴくぴく震えるアキラをころんと寝転がせると、緒方は台所に
向かいました。
台所で緒方が何やらごそごそ音を立てている様子をアキラは寝転がりながら、
恐怖に打ち震えた表情で見ています。
 やがて、緒方はバスタオルを腰に巻いたまま、片手に缶ビール、もう片方の手には
アキラの見慣れぬ物体を持って現れました。


(22)
ぴくぴく震えながら座布団の上に寝転がるアキラの横に、緒方はどっかりと
胡座をかくと、ひょいとアキラを抱き上げました。
 緒方はアキラをくるんでいたバスタオルをそっと取り上げ、座布団の上に敷くと、
裸にされて更にぴくぴく震えるアキラをそこに俯せに寝かせます。
アキラは、何をされるのか緒方に訊きたくてたまらないのですが、恐怖のあまり
もはや声も出ない状態です。
 緒方はどこか楽しげな様子で、持ってきた缶ビールをプシュッと開けると、
一口飲み、幸せそうにプハーッと大きく息を吐き出しました。
そして、持ってきた怪しい物体をおもむろにアキラの肩や背中や尻に優しく
押し当てました。
 アキラはその冷たい感触に、最初こそ思わず「きゃぁっ!!」と悲鳴を上げ
ましたが、恐怖におののいていた表情は次第にリラックスしたものに変わっていきます。
「おがたくぅん、それなぁに?」
 日焼けして赤く火照った肌を緒方が謎の物体で冷ましてくれていることがわかり、
アキラは嬉しそうに足をパタパタさせながら尋ねました。
「これはなぁ、『ひょうのう』って言うんだよ、アキラ君。氷が中に入ってるんだ。
よし、今度はこっちにお腹を向けてごらん」


(23)
 アキラは素直にころんと転がって、仰向けになりました。
緒方が楽しそうにビールを飲みながら、氷嚢を腹や胸に当ててくれるのを
うっとりとした表情で見つめながら、アキラは呟きました。
「『ひょうのう』……。なんだか、おがたくんのおててみたいだねっ!」
 緒方は不思議そうにアキラのことを見つめました。
「オレの手……かい?」
 アキラは頷きました。
「だって、こうえんにいくまえに、おがたくんボクのほっぺたをひやしてくれた
でしょ?おがたくんのおおててもひんやりしていて、『ひょうのう』みたいに
きもちよかったんだよっ!!」
 アキラが嬉しそうにそう言うのを聞いて、緒方は納得したように「ハハハ!」
と笑いました。
緒方はビールの缶を床に置き、アキラの顔を真上から至近距離で覗き込むと、
手を頬にそっと当てました。
「缶ビールを持ってたから、凄く冷たいだろ。気持ちいいかい、アキラ君?」
アキラは満面の笑みを浮かべて緒方の両頬を小さな手で包み込むと、鼻の頭に
チュッとキスして、大きく「うんっ!!」と頷きました。

                               <終>



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