Trick or Treat! 21 - 30
(21)
「ん・・・ん・・・っ、んぅ・・・っ?」
自分の唇をアキラの唇に押しつけ、むにむにと無闇に動かしながらその感触を楽しむ。
弾力のある柔らかな唇肉の向こうに、それが生え揃うまでを見守ってきた
繊細な歯の存在を感じる。その向こうには自分が良く知っている温かな口腔がある。
唇を触れ合わせたまま上唇と下唇を交互に食むように軽く吸い、それから改めて
唇全体を強く吸い上げ、今度こそきちんと音を立てて離してやった。
「・・・・・・?」
キスの名残りで少し濡れた唇を光らせながら、アキラは肩を上下させて緒方を見た。
潤みかけた黒い瞳には、警戒と不信と幾らかの期待と、灯りはじめた甘い熱とが
一緒くたになって揺れている。
その瞳の色をつくづくといとおしみながら、緒方はもう一度アキラの唇に口付けた。
ん、とアキラが身を捩ろうとする。
それを押さえてもう一度。
顔を背けて逃げようとするのを固定してもう一度。
寝室の中にチュッ、チュッとわざとらしいくらい可憐で一途なキスの音を
途切れることなく響かせた。
「ん・・・ふぅっ、おゎ・・・おぁたさっ、・・・ど、して・・・」
片時も離れない唇に発音を妨害されながら、アキラが懸命に聞いた。
「なんだ?よく聞き取れないぜ」
一息つくように唇を離し、アキラの顔の上に覆い被さるように両肘をベッドに突いて
瞳の中を覗き込む。
出来るだけ真面目くさった声で言ったつもりだったが、目が笑っていたのだろう。
潤んで揺れていた黒い瞳がむっとしたように強い光を宿し、緒方を睨みつけた。
(22)
「・・・やっぱり、からかってるんじゃありませんか。何で急に、こんなこと」
「キスして欲しかったんだろ?」
目で笑いながら言ってやるとアキラの顔が見る見る赤く染まり、眉間に皺が寄せられる。
ぐっと悔しげに緒方を睨みつけるその目には、だが少し哀しそうな色が宿っている。
潤んだ目から目尻へと光るものが溜まり始め、
緒方の下のアキラはべそを掻きたいのを必死で堪えるような表情になった。
――ちょっと突付いたら、たちまち溢れ出て泣き出してしまいそうだ。
自分はアキラを泣かせるのが上手いと思う。
滅多に泣かないアキラの心身の弱い所を自分は良く知っていて、
そこを突付いては泣かせてみたくなってしまう。
だが一生こんな風に傷つけて泣かせてばかりいるくらいなら、
自分などさっさと死んでしまってアキラを自由にしてやったほうがいいのだ。
緒方はふっと表情を和らげ、静かにアキラの瞳を覗き込みながら言った。
「・・・すまん。少しからかった。・・・本当は、おまえがして欲しがるから、じゃない。
・・・オレだ。オレが、おまえにキスしたい。今まで足りなかった分も、全部だ。
そして、これからも一生、おまえにだけキスしたい。おまえにキスして、おまえに触って、
毎日暮らしたい・・・んだぜオレは」
最後のほうは恥ずかしくてつい口籠もった。
こんな告白をするなど初めてな上に、自分の言葉が進むにつれて
アキラの目が大きく大きく花が開いていくように見開かれて揺れるので、
くらくらしてきた緒方は自己防衛のため目を閉じた。
(23)
しばらくの沈黙。
照れ臭くて目を開けられたものではない。
自分の下でアキラが小さく息をつく音が聞こえた。
それっきり何も反応がないのを不審に思ってそろそろと目を薄く開くと、
眼下には見慣れた大きな黒い目があり、それがぐんぐんぐんぐん近づいてくる。
――だからちょっと待て!今コイツとオレの距離は何cmになってるんだ?
そう思った瞬間長い睫毛がパサリと閉じて、
緒方の唇にあの日と同じ、優しいアキラの唇が押し付けられた。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ちゅっ、と小さな音を立てて唇が離れ、アキラの上体がばふりとベッドの上に倒れ込んだ。
腹筋だけで身を起こす体勢で口付けていたため、長く保たなかったらしい。
「はぁ・・・」
腕を左右に大きく投げ出し、天井を見上げてアキラが溜め息をつく。
何だか疲れたような、清々しいような顔で微笑んでいる。
「おい――」
それだけか?
このオレがあんな恥ずかしい思いをしてあんな台詞を言ってやったのにそれだけか?
と心に思う。
だが清々しく微笑んでいたアキラの瞳は見る見る潤み、
両の目尻からポロリと水が零れたかと思うと、アキラは枕を抱え顔を隠してしまった。
「どうした」
「・・・・・・」
アキラは答えず、枕の下で声を殺して泣いている。
枕をぎゅっと掴んでいるこの手も、あの頃に比べれば随分大きく育ったものだ。
「じゃあ、・・・嬉しいのか嫌だったのか、二択で答えろよ。・・・どっちだ」
「・・・れし、・・・れしっ、・・・うれしいです・・・」
ひどくしゃくり上げながら枕の下のアキラが答えた。
「・・・嬉しいなら、そんな枕なんかよりオレに抱きついて泣け」
枕を部屋の隅に放り投げ、キラキラと涙に濡れた瞳と目が合うと、どちらからともなく唇が触れた。
(24)
まだ時折小さくしゃくり上げながら、アキラは必死で緒方の唇に吸い付いてきた。
泣くことで熱を持った吐息が、ふっ、ふっ、と癇癪を起こしたような声と一緒に洩れる。
ぐいぐいと引き寄せられしがみつかれる首や背中が痛いほどだ。
「・・・おまえ、そんなにキスが好きだったのか?」
いつになく積極的なアキラに面食らいながら、だったら今までセックスをした時にも
もっと唇に触れてやればよかったと思いつつ緒方は呟いた。
アキラはまた泣き出しそうな顔になって、
キスが好きなんじゃなくて緒方さんとするキスが好きなのに、と言った。
アキラが言い終わるのを待たずに口付けた。
唇を吸っては触れるだけのキスから、舌を差し入れて温かな中をゆっくりと
掻き回してやると、アキラの舌がぴくんと起き上がって絡み付いてくる。
濡れた音を立てながら動きの不自由な口腔内での交歓を続けるうち、
溜まった唾液がアキラの唇の端から零れて、吐息には湿った甘い熱が混じり始める。
それを見て取った緒方は一際優しいキスをアキラの上唇に施してから顔を離し、
舌の代わりに右手の指を一本濡れた唇の中に滑り込ませた。
「んっ、・・・」
「しゃぶらなくていい。そのまま、口を開いておけ」
口腔の内部に溜まった唾液を指に掬い取り、赤い唇の裏側のごく浅い部分を
細かな動きで掻くように何度も擦ってやると、アキラの首から肩にかけてが
目に見えてびくりと竦み、首の後ろに回された両手に力が込められた。
(25)
「んぁ、・・・はぁ・・・っ、・・・ぁあ・・・」
「気持ちいいか?口の中も、粘膜だからな」
笑いながら緒方は指を二本に増やして更に奥へと差し入れ、温かで滑らかな頬の内側や
繊細な凹凸のある硬口蓋を焦らすように何度も撫でた。
「んっ・・・、んぁ、」
開いたままのアキラの口が次第にカクカクと震え始め、首に回されていた手が降りてきて
緒方の手首に添えられる。
「どうした?」
笑みを含んだ緒方の目と視線が合うと、アキラは反応を窺うように甘く潤んだ目で
緒方を見つめながら、そろそろと唇を閉じた。
「開いておくように言っただろうが」
優しく囁くだけで緒方が指を引き抜こうとはしないのがわかると、
アキラは嬉しそうに微笑んで両手を緒方の手首に添え、ニコニコと棒状のキャンディでも
しゃぶるように二本の指をしゃぶり始めた。
「指なんかしゃぶって、旨いのか?」
「んっ・・・」
答える代わりに嬉しそうな顔をして、アキラはぴちゃぴちゃと緒方の指を舐める。
「オレの指が、好きなのか」
「ん」
真面目な瞳で軽く頷いてからまた嬉しそうな顔に戻り、遊ぶようにちゅうちゅうと
音を立てる。
――今アキラが愛撫してくれているのは自分の指だが、それと同時に自分自身でもあり、
自分の全てだ。
この口がまだ食べる事も喋る事も出来なかった頃からアキラを知っている。
時を経て自分たちが今こうしているのは不思議なようでもあり、
また初めから決まっていたことのようでもあった。
(26)
「・・・指だけで満足か?そろそろ、他のご馳走も欲しそうな顔をしてるぜ」
濡れた唇の中へと二本の指をゆっくり押し込み、とあるリズムで抜き差しを
繰り返してやると、アキラは悪戯っぽく微笑んでから目を閉じ、
指の動きに呼吸を合わせるように口腔をうっとりと収縮させた。
緒方の腰にのしかかられている下腹部には、既にゆっくりと立ち上がっていたものの
気配がある。
それを承諾の合図と取った緒方は指を抜き、仰向けのアキラのエプロンの下に
手を差し入れてウエストのボタンを緩めた。
アキラが小さく息を乱しながら身を起こし、自分でエプロンを外そうとする。
「外すな。そのままだ」
「え?だって」
「いいから」
細い腰の下に手を差し入れて下着ごと下半身の衣服をずり下ろすと、
アキラが小さく声を上げた。
「"アキラくん"はなかなか力持ちだな」
喉の奥で笑いながら言ってやると、アキラが少し顔を赤くしてそっぽを向く。
エプロンの薄い布地が下から持ち上げられて見事な山型を成していた。
山の頂点にはじわりと内側から滲み出た染みがある。
緒方はためらいなくその中へ頭を潜り込ませ、中心にあるものを口に含んだ。
「あ、緒方さん・・・っ、アッ、ぅん、あんんっ!」
驚いて身を起こしかけたアキラが、身をのけぞらせた気配がする。
エプロンの中の世界は薄暗く暖かく、アキラの匂いがした。
さっきアキラが自分の指にした行為のお返しのように念入りにしゃぶってやると、
アキラが細い声を上げてエプロンの上から緒方の頭を押さえた。
逃れたいのか、より深い快楽を得たいのか、太腿の途中に引っ掛かったままの
衣服によって脚の動きを封じられたアキラが激しく腰をくねらせる。
「いいから、出せよ・・・」
差し入れた両手でアキラの尻肉を強く鷲掴みにしながら吸い上げると、
アキラは声を上げながらビクッビクッと痙攣して、緒方の口中に一度目の精を放った。
(27)
口内に流れ込んできた青臭い迸りと共に、
手に掴んだ尻肉と、顔の間近にある太腿とが一気に弛緩する。
じわっと汗ばんだ小ぶりな尻肉をやわやわと揉みながら、
最後の一滴まで搾り取るように丁寧に吸い上げてやると左右の太腿がぴくんと動いた。
エプロンに包まれた薄暗い空間は、濡れたアキラの膚が発する熱の籠もった匂いで
濃密に満たされている。
アキラの出したものを含んだままの自分の口にも、アキラの香りが充満している。
目を閉じてそれらを堪能しながら、
緒方はゴクリ、ゴクリと幾度かに分けてアキラの出したものを飲み下した。
名残り惜しい思いでエプロンから頭を抜いて見ると、
アキラは薄目を開いた瞼の縁を濡らしてハァハァと荒い息をついている。
「はぁ・・・ぅ・・・」
「いいのが出たじゃないか」
痺れたように力が抜けてしまったアキラにしれっと労いの言葉をかけながら
再びエプロンの下に手を差し入れ、太腿に引っ掛かったままの衣服と下着を
まとめて脱がせた。
太腿から引き下ろす拍子に手に触れた下着の股当ての部分が、
先にアキラが一人で滲ませたものによって冷たく濡れていた。
(28)
「まっ・・・て、緒方さん・・・エプロンだけ、外させてください・・・」
身体の下に手を差し入れられ、ころんと引っ繰り返されながらアキラが訴えた。
その腰を上に引っ張り、尻だけを高く上げさせながら緒方が惚けて聞いた。
「どうしてだ?」
「どうしてって、ご飯を作る時に使うものなのに・・・不衛生です」
胸から膝上あたりまで覆うタイプの薄い小花模様のエプロンの他に、
上半身にはシャツと薄手のカーディガン、足には白い靴下を着けたままで
尻から足首までの部分のみを剥き出しにしたアキラが戸惑った声で言う。
「どうせさっき汚したから、後で洗うんだろ?だったら、着けたままでも同じことだ」
一旦ベッドを離れて引き出しから潤滑剤を取り出し、片手でキャップを開けながら
アキラの脇に立つ。
「で、でも・・・何だか」
「何だか?」
高々と突き出された白い尻の尾?骨の部分に容器の丸い口を当てゆっくり傾けると、
小ぶりな双丘の間の細い小道を薄い色のついた液体がつうっと足早に伝い落ちていく。
「あッ・・・!」
咄嗟にアキラが左右から尻肉を緊張させ小道の途中で液体を堰き止めようとした。
が、努力空しくそれらは小道の終着点まで達すると、ポタリポタリとアキラの下の
エプロンに落下して幾つもの染みを作った。
「・・・・・・」
声を詰まらせて、アキラが悔しそうに顔をしかめる。
「なかなかいい締めつけ具合だったぜ」
緒方はニヤニヤと笑いながら自分の指にもたっぷりと潤滑剤を取り、
アキラの後ろに押し当てた。
(29)
クチュ、ネチュと粘着性の音を立てて緒方の長い指がアキラの中を動く。
その間アキラはもう観念したというように目を閉じ、片手の親指を唇に押し当てて
耐えていた。
閉じた瞼の縁は赤みが差して濡れ、緒方の指に探られる内部は先ほどの口唇以上の
貪欲さで侵入者に熱く吸い付き、生き物のように蠢きながら締め付けてくる。
「・・・オレの指が、好きなんだな」
揶揄するように先刻の言葉を繰り返してやると、アキラは一層悔しそうに唇を噛み
無言でシーツに顔を埋めてしまった。
そんな態度とは裏腹に、指を埋めた箇所がキュッキュッとせがむように何度も
指を締め付けてくるのが可笑しくいとおしい。
「・・・よし」
十分に慣らした感触を得た緒方はアキラの背後に膝をついて熱い昂りを取り出し、
薄い腰骨を掴んで狙いを定めると、一息に腰を進めた。
「あ、あー・・・っ、ンくっ、・・・フゥッー・・・!」
アキラの手指が握り締めるようにシーツの上を掻く。
熱く湿った柔らかな肉できつく締め上げられ、緒方は思わず全身を強張らせた。
「こら、もう少し、・・・緩めろ」
アキラはやるせなく息を荒げながら関節が反り返るほど強くシーツの上に指を立てて、
何とか緒方の注文に応えようと努めている。
緒方の眼下にあるアキラの肩から背中にかけては薄青い小花模様のエプロンの紐が
罰点形に渡され、それがウエストの部分で蝶々の形に結ばれている。
それはアキラが自分の帰りを待ちながら夕飯の支度をする為のものだったと思うと愛しい。
それと同時に、台所という限りなく日常的な場所でシチューなど掻き混ぜていたアキラが、
いまエプロン姿のまま下半身だけを剥き出しにして自分に貫かれ喘いでいるという
非日常的な状況が緒方を煽った。
「・・・動くぞ」
馴染ませるのもそこそこに腰を動かし次第に加速し、
アキラの鳴き声と痙攣する内部の感触を余すことなく堪能しながら、
緒方は締め上げてくる器官の最奥目がけ熱い迸りを叩きつけた。
(30)
「んぅ・・・」
ぐったりとベッドの上にくずおれたアキラの身体を仰向けると、
アキラは目尻をうっすらと濡らし、蕩けてしまったような表情で瞼を閉じている。
濡れた目尻を指で拭ってやりながら緒方が囁いた。
「・・・痛かったか?」
「だいじょ・・・です・・・」
「そうか。・・・よかったか?」
潤んだ瞳が薄く開いて緒方を見た。
「・・・よかっ・・・・・・とっても・・・」
「・・・そうか」
唇を触れ合う寸前の距離まで近づけ、濡れたアキラの瞳と見つめあった。
どちらからともなく唇が触れ、ちゅっ、とうぶな音を立てて離れた。
廊下のほうでは洗濯機が控えめな音を立てて回っている。
二人が食卓についたのは普段の夕食より一時間遅れた時刻だった。
「やっぱり、少し甘かったですね」
煮崩れしてしまったカボチャのシチューを口に運びながらアキラが言った。
「そうか?美味いぞ」
――アキラが作った物なら何でも美味い。
そう言おうかどうしようか照れ臭くて迷っていると、
アキラが窓辺の小さなカボチャに目を遣り言った。
「あの子。昔を思い出して買ったっておっしゃってましたよね。
昔、ハロウィンで何かあったんですか?」
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