座敷牢中夢地獄 22
(22)
「アキラくん?」
予想外の反応に面食らっている俺に、アキラはちょっと微笑んで言った。
「・・・なんて。お父さんは自分の棋士としての生活を犠牲にしてまでボクの側にいて
くれるのに、そんなこと言ったら罰が当たりますよね。・・・さあ!お布団を敷いちゃい
ますね」
そう言って立ち上がろうとするアキラの手首を反射的に掴んで押しとどめた。
振り返るアキラの澄んだ瞳と目が合う。
「?何でしょうか」
「アキラくん・・・」
言葉の続きが見つからない。
自分で気づいていないのか?キミは。
「あっ」
ぐい、と引っ張るとまだ成長し切らないアキラの細い体が腕の中に倒れ込んできた。
アキラがさすがに訝しげに顔を上げる。
赤ん坊の頃に俺を感動させた美しい黒い目。
その澄明さは今も少しも変わらないのに、あの頃は無縁だった何かがやはりキミを今
苦しめているのだろうか?
人差し指の甲でアキラの滑らかな頬をそっと撫で上げると、後から後から流れ落ちる
温かで透明な雫が、掬い切れずにほろりと指の腹側へ零れ落ちた。
虚ろなほど澄み切った瞳でアキラは俺の指に掬われた自分の涙を不思議そうに眺めた。
|