無題 第3部 23
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躊躇しているヒカルをもう一度促した。
「知りたいんだろう?アイツとオレの関係を。知りたいんなら、来い。教えてやるさ。」
どこかで聞いたような台詞だ。緒方は頭の片隅でそう思った。
無言で運転する緒方を、ヒカルはちらっと横目で見た。
カッコイイと思ってしまった自分が悔しかった。
高価そうな車。煙草の匂い。シフトレバーを操る手。
それは自分のような小さな子供っぽい手とは違う、逞しい大人の男の手だ。
この手が塔矢に触れたのかと思うと、はらわたが煮え繰りかえりそうだった。
それなのに、その手を羨ましいと、カッコイイと感じてしまう自分がいるのが、一層悔しかった。
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