座敷牢中夢地獄 25
(25)
夢の中でもアキラを抱いていた。
だがやがて塩辛い波が押し寄せて、アキラも俺も暗い海の中に攫われてしまう。
初めて出会った時のようにアキラを浜へ引きずり出そうとするが、波の力が強くて
うまく行かない。
「アキラくん、戻るんだ」
必死で叫ぶ俺にアキラがあの澄明な目で言った。
「緒方さん、怖いんですか?」
――怖い?何が。
「ボクの探してる物が」
――え、何だって?
キミの探し物が何なのかすら俺は教えてもらっていない。
だから、怖いなんてことがあるはずがない。
なぁおい、そうだろ、キミは一言だって俺に話しちゃくれなかったじゃないか。
俺はただ、せっかく水底に沈んでいる化け物を引きずり出して欲しくないだけだ。
塩辛い水に浸った化け物を。
そこまで行って目が覚めた。
頭の下には程よい硬さの枕があてがわれ、身体の上には軽い布団が掛けられている。
布団の上に寝ているのは俺一人だった。
昨夜は布団も敷かずにアキラを抱いたまま眠ってしまったはずなのに。
――酒の上での夢だったのか?
それにしては五官に残る記憶が生々しい、ような気もする。
記憶の中のアキラは俺に抱かれながら嫌がるでもなく自分から腕を絡みつかせて、
ただ終始固く瞼を閉じて声を殺していた。
温かな素肌と至近距離で震える熱い吐息の感触が甦り、身体の芯にゾクリと震えが走る。
もう朝と言ってよい時刻のはずだが障子を透かして窺う外の世界はまだ暗い。
雨は、降りやまないようだ。
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