座敷牢中夢地獄 26
(26)
どこまでが夢で、どこまでが現実なのか。
その境目が今一つわからない、ふわふわした頼りない気分のままで、
俺は廊下を渡り居間へと向かった。
襖の隙間から皓々と白い光が洩れている。
朝とは言え暗いから電灯を点けているのだろう。
その襖に手を掛けるのがどことなく怖ろしかった。
昨夜俺の腕の中にいたと思ったアキラが今また何事もなかったように父親の膝の上で
甘えていたら、そしてまた俺を一瞥もしなかったら、きっと俺は昨日の数倍は打ちのめ
されることだろう。
目を閉じ覚悟を決めて、「おはようございます」と一気に襖を開けた。
俺の覚悟に反して、部屋の中では拍子抜けするほど見慣れた光景が展開されていた。
碁盤を挟んで背筋を伸ばした父子が向き合っている。盤面は・・・もう終局のようだ。
「ああ、おはよう」
俺に気づいた先生が鷹揚な仕草で振り向いた。
アキラも「おはようございます」と軽く頭を下げてくる。
昨夜のことが夢だったのか現実だったのかはわからないが、正直、今朝はアキラの顔が
まともに見られない。
実を言うと今までにも師匠の息子をそういう行為の対象とする夢を見たことはあった。
だが目が覚めた後これほど生々しく感触が残っていたことはこれまでになかった。
あれが現実だったなら先生の前でそのことを気取られてはならないと思うし、
あれが夢だったならそんな夢を見てしまったことがアキラに対して後ろめたい。
何よりアキラの視線がこちらに注がれているのを感じるだけで顔が熱くなっていく。
いい年をして、初恋でもあるまいし、これしきのことで何を動揺しているのだろうと
自分で思う。
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