無題 第3部 27
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その時インターフォンの音が鳴り、緒方がヒカルの上から身体を起こした。
「オレ…帰る。」
震える声でヒカルが言った。
「もう、遅い。」
緒方は冷たく言い捨てた。
「誰か、来たんだろ。帰る。オレ」
「ああ、来たとも。おまえの待っていたヤツが。」
ヒカルは目を見開いた。塔矢か?塔矢がここに…?
咄嗟に逃げ出そうとしたヒカルを緒方は押さえつけた。
「もう、遅い。今更逃げてどうする?そこに座っていろ!」
それでも立ち上がろうとするヒカルの肩を緒方が掴んで座り直させる。
「そこに座っていろと言っているんだ!!」
「アイツがおまえに会いに来てるって言うのに、オレがここにいて、どうするんだよ!?」
再度インターフォンが鳴る。
背中に向かって叫ぶヒカルを置いたまま、緒方は玄関に向かった。
「アキラ…ああ、上がっておいで。」
怒りと悔しさに身体を震わせながら、ヒカルはソファに座ったまま動けなかった。
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