座敷牢中夢地獄 28
(28)
「アキラくん」
「しっ・・・」
意外な来訪者に俺が驚いているとアキラは唇の前に人差し指を立て、静かに引き戸を
閉めた。服が濡れないよう注意しながら湯船の傍らにしゃがみ込み、顔を近づけてくる。
「すみません、お父さんに内緒で来ているので・・・緒方さんも、これくらいの声で
お願いします」
「あ、ああ」
至近距離で囁くアキラの優しい呼気を感じて、頬がまた火で炙られるように熱くなる。
それを誤魔化すようにざぷりと湯を両手で掬い、顔に掛けた。
「何か用でも?」
「手短に言います。・・・緒方さん。後で昨日みたいにお酒を勧められても、決して
飲まないでください」
「酒?」
「ええ。食べ物やお茶は何でも召し上がっていただいて結構ですが、お酒だけは。
・・・そして朝食が済んだらすぐにこの家を出発してください。お父さんに何を言われても
聞かないで」
囁くアキラの表情は有無を言わせないほど静かで真剣だった。
熱い湯の中だというのに、ぞくぞくっと本能的に寒気が走る。
昨夜俺が酒に潰れた時、先生は何と言っていた?
「それだけです。・・・じゃ」
踵を返そうとするアキラを慌てて呼び止めた。
「待ってくれ。・・・もう一つ訊きたいことがある」
|