座敷牢中夢地獄 33


(33)
「アキラ、あれを」
「・・・はい」
食事が済むと、アキラが盃と、黒っぽい色の小さな甕を盆に載せてやって来た。
「秘蔵の酒だ。餞別代わりに一杯、飲んでいきたまえ」
アキラに目を遣るとあの澄んだ目で俺に目配せをし、小さく首を振ってみせる。
「・・・昼間は、酒は入れないことにしていますので」
「一杯くらいいいだろう。アキラ、お酌を」
「でも、お父さん。緒方さんがこうおっしゃってるんですから、無理にお勧めするのは・・・」
さりげなく先生をたしなめるアキラの声は、少し緊張しているようだった。
俺のためにアキラが父親に反論してくれているという事実に、呑気にも胸が熱くなる。
だが先生は途端に不機嫌そうな顔になって腕組みをすると、俺の顔をねめつけた。
「緒方くん。・・・うちのアキラの盃が飲めないというのかね?」
「・・・はっ?」
まさかそう来るとは思っていなかった。
二の句を継げないでいると、アキラが先生の袖を引っ張る。
「お父さん。そんな言い方・・・!」
「おまえは黙っていなさい。・・・ふむ、では質問を変えようか。緒方くんはアキラのことが
嫌いなのかね?」
「え」
思わずアキラのほうを見る。答えはわかり切っている。
「そんなことは」
「ないのかね。・・・ということは、好きなのかね?」



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