無題 第3部 36
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アキラの涙に濡れた瞳がヒカルを見上げた。
「知ってたんだ。
緒方さんが、ボクをどんなに愛してくれてるか。どんなに優しくしてくれてるか。
でも、ダメなんだ。緒方さんじゃないんだ。
思い出すのはいつもキミなのに、ボクが好きなのは、ボクが欲しいのはキミだけなのに、
身体だけ、欲望に負けて、緒方さんを利用した。わかってて、利用した。
そんな、ずるくて汚いヤツなんだ、ボクは…」
―だから、こんなバチが当たって当然だ。
そう続けようとしたアキラを唐突にヒカルが引き止めた。
「ちょ、ちょっと待って、塔矢、ちょっと待って…。」
ヒカルの目が、濡れて黒く光るアキラの瞳を捕らえて、尋ねた。
「今、なんて言った…?」
「ボクはずるくて汚いって。
緒方さんの気持ちを知ってて、利用するだけした、ずるい奴だって。」
そんなアキラの言葉など打ち消すように、ヒカルが言った。
「違う、そうじゃない、オレを好きだって、オレを欲しいって、言った…?」
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