座敷牢中夢地獄 39
(39)
すかさずアキラが手帳を拾い上げ、ポーンと部屋の隅に放る。
「おい、アキラ」
さすがに先生が困った声を上げる。
アキラは涙を溜めた黒い瞳でそんな先生の顔を見上げ、ぎゅっと父親の着物の胸を掴んだ。
「お父さん、手帳さんとボクとどっちが大事?・・・ねぇっ、どっちが大事?・・・」
父親の胸に小さな頭を押し付けてせっつくように何度もアキラが訊くと、先生は少し
戸惑った顔で、息子の小さな背中をポンポンと軽く叩きながら言った。
「それは・・・おまえのほうが大事だよ。決まっているだろう」
「ホント?じゃ、手帳さんにバイバイして。バイバーイ。ねっ、ハイ、一緒に!バイバーイ」
「ああ、うむ・・・バイバーイ」
先生がアキラに合わせてひらひらと手を振ってみせる。
「それでね、そしたら手帳さんもういらないから、ごみ箱に捨てちゃって?」
「うむ・・・では緒方くん、すまないがそれを屑籠に」
「え」
いいんですか、と目で訊くと、うむ・・・と先生が肯いた。
「手帳さん」が屑籠に葬られたのを見るとアキラは林檎のような頬を輝かせ、満足気に
父親にしがみついた。
そのまま先生が膝の上でアキラをあやし、真っ直ぐな髪を丁寧に何度も撫でてやると、
安心したのかアキラは眠ってしまった。
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