座敷牢中夢地獄 4
(4)
「キミ!?」
慌てて荷物と傘を放り出し、波を掻き分けてそこまで進む。
「・・・離してください!放っておいて・・・」
「駄目だ!早まるな、とにかく岸へ戻れ!」
水でするすると滑りそうになる肩と腕をありったけの力で掴み、抱きかかえるようにして
砂浜へと引きずり出す。
重い海水から脱け出た途端にバランスを崩し、二人してそこへ倒れ込んだ。
「うっ・・・」
小さな呻き声に慌てて身を起こす。
「すまない。どこか痛く・・・」
言いかけて、相手のおもてとまともに向かい合い言葉を失う。
赤ん坊の頃からさして変わらない、透けるように清らかな肌膚。
水に濡れて貼り付いた黒い前髪の下から大きな切れ長の瞳がじっとこちらを見つめている。
その瞳に釘付けにされたように動けないでいると相手は観念したようにゆっくり瞼を閉じ、
それと同時に大粒の涙が後から後から長い睫毛を伝って流れ落ちた。
「大事な・・・」
「え?」
夢のように問い返す。相手は流れ落ちる涙を隠そうともせず、
目を閉じたまま小さな唇を動かして囁くように告げた。
「大事なものを失くしてしまったんです。探さなきゃ・・・」
「・・・だからってこんな暗い海に一人で入るなんて無茶にも程があるよ。アキラくん」
名前を呼んでやると驚いたように目を開けた。
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