Sullen Boy 4 - 5
(4)
「酔ってなんかいない」
「その割には、随分お酒臭いじゃないですか」
「確かに飲みはしたさ。だが、オレは酔ってない」
「さあ、どうだか……」
薄曇りの上空には星ひとつ見えない。
そんな夜空を見上げたまま、アキラは肩をすくめた。
緒方は人を食ったアキラのリアクションに、ムキになって反論する。
「酔えるわけがないだろう!アイツは……芦原はオレの秘蔵の30年モノを……」
「30年モノ?」
意味がわからず、アキラは緒方の顔を見つめた。
「バランタインだ!幾らすると思ってるんだ、あの大馬鹿野郎!!……まったく……
水みたいに遠慮なくガブガブ飲みやがって……」
怒りのあまり強く握りしめた拳を戦慄かせる緒方に、アキラは思わず吹き出した。
「笑うなッ!」
「……だって……」
笑いが止まらない様子のアキラに、緒方は舌打ちすると、前方の闇に向かって鋭く
拳を突き出す。
「芦原なんざァ、安い発泡酒でも飲んでればいいんだ!どうせ酒の味なんてロクに
わかってないぞ、アイツ……。それを……オレがちょっと目を離した隙に……」
(5)
「……でも、発泡酒も飲んでたじゃないですか、芦原さん……」
フェンスに掛けた腕に顔を伏せて肩を震わせるアキラは、笑いを堪えながらなんとか
そう言った。
「ああ、飲んでいたさ。発泡酒に缶酎ハイ……ああいう安酒こそ芦原には相応しいからな。
……だいたいなァ、同じバランタインでも12年モノを棚の手前に入れておいたんだ。
30年モノはすぐには見えない奥にしまってあったんだぞ。……アイツ、一体どうやって……」
幸せそうに床に寝転がっていた芦原の姿を思い浮かべ、アキラは全身を震わせて大笑いしたが、
なんとか顔を起こすと、ブツブツ呟く緒方の肩に手を遣った。
「芦原さんだって、悪気があったわけじゃないでしょう?許してあげてくださいよ」
「ダメだ!絶対に許さんッ!!」
「じゃあ、ボクがそのバランタインの30年モノを買って、緒方さんにプレゼントしますよ。
それで許してあげてくれませんか?」
「……アキラ君……、値段を知ってるのか?」
「いいえ。幾らですか?」
「……正規の国内価格なら7万7千円だ……」
「7万7千円ですね。わかりました」
驚いた様子など微塵も見せず、屈託のない笑顔でそう言って頷くアキラに、緒方はしばし呆然として
その場に立ちつくす。
「……オレが碁聖のタイトルを取ったらでいいぞ……」
緒方は明日にでも買って来かねないアキラの様子に、一応のフォローを入れ、大きく溜息をついた。
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